関係者 様

あけましておめでとうございます。
昨年中は、皆様のお力をいただき大変にありがとうございました。
今年も日本復活のための活動を続けてまいります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

では、今年最初の山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信________________2008.1.7_
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┃高成長に戻る世界経済と取り残される日本
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《成功の記憶を捨て、新たな経済の仕組みを見据えた一年に》
 去年の世界経済は、米国でのサブプライムローン(信用力の低い個人向け住
 宅融資)の問題で揺れました。1990年代以来上昇を続けた米国の不動産は大
 幅に値下がりし、証券化された商品に投資した世界の金融機関が巨額の損失
 を計上しました。危機を過小評価して対策が何度も後手に回ったバーナンキ
 議長のFRB(連邦準備理事会)の対応のまずさもあって、世界中の株式市場は
 乱高下を繰り返しました。

 今年も、サブプライムローン問題は、米国経済に大きな影を落とすでしょう。
 消費は落ち込み、金融機関の貸し出しも落ち込むことが予想されます。
 そうなると、日本から米国向けの輸出も伸び悩むでしょう。

 それでも、米国や世界の金融システムが、90年代の初めのような深刻な危機
 に陥るリスクは小さいと見られます。その理由は、大手金融機関の自己資本が
 当時と比べてはるかに大きいこともありますが、より根源的には、世界経済で
 投資や貸し付けに回すことができる資金が極めて潤沢であることです。

《8,100億円もの資金調達が可能なことを見せ付けたシティバンク》
 その象徴がシティグループです。ジョン・リード会長時代の90年代の初めに
 約3,000億円の損失を計上し、経営危機が囁かれました。そのとき、サウジア
 ラビアのアルワリード王子が約700億円分の優先株を購入してようやく危機を
 脱しました。

 去年、シティはサブプライム問題で最大で約2兆円にも上る巨額損失の計上
 を発表しました。プリンスCEO(最高経営責任者)は辞任し、後任がなかなか
 決まりませんでした。ところがそのとき、アラブ首長国連邦のアブダビ投資庁
 が約8,100億円を出資し、シティは自己資本を充実することが出来ました。
 15年前とは比較にならない金額を、米国のトップ金融機関は、海外から調達
 出来ることを見せ付けました。

 もう一つは、金融機関が担保に取る不動産市場の下落が米国に限られ、世界
 に広がる気配がないことです。特に、アジアや中東での旺盛な不動産開発や
 投資は抑制が難しいほどです。90年代初めのように、世界同時の不動産下落
 は起きていないのです。

《資産市場の安定のために直ちに金利の大幅低下が必要》
 そもそも、2006年6月まで、FRBが17回も連続して利上げをし、米国での信用
 収縮を目指してきました。引き締め政策の効果は、特に過熱した不動産など
 の資産市場がそのターゲットだったはずです。金利政策の効果は18ヶ月後に
 表れると言われるわけですから、去年のサブプライム問題に端を発したアメ
 リカの不動産の下落はセオリー通りと言えるでしょう。

 金融引き締めによる信用収縮は、資産市場のうち最も過剰なレバレッジと
 価格の上方乖離をしてきたところに表れるのが普通です。1990年代の前半は
 世界の不動産、後半はヘッジファンドやアジアの通貨や株式であり、2000年
 代前半はITバブル、後半は米国のサブプライム市場がそれに該当したわけ
 です。

 しかし、いったん政策効果が出て資産市場が低下を始めれば、今度は過大な
 信用収縮を防がなければ、金融機関の損失の拡大から連鎖的な金融収縮が
 起きます。そのために速やかで思い切った金利低下と資金供給が必要になる
 のです。FRBは米国の金融当局であると同時に、ドルという世界通貨の供給
 元である以上、自国と世界の資産市場をコントロールする宿命にあるわけで
 す。ECB(欧州中央銀行)もそうした性格を持ちます。同様に、日本の日銀も
 キャリートレードなどを通じて行われる円を通じた信用創造をコントロール
 する使命を持っているはずなのですが…。

 つまり、中央銀行にとっては、銀行貸し付けという狭い定義の信用創造よりも
 はるかに規模が大きく変動性が高い、不動産、株式、商品、債券などの資産
 市場の安定が重要になります。グローバリゼーション金融の時代の中央銀行
 の宿命です。

 なぜなら、そうして資産市場を支えているのは、短期金利によって借り入れを
 行う、ファンド、証券会社、銀行の自己部門、保険会社などの機関投資家で
 す。金利の上昇は、そうしたトレーダーの損益分岐点を、レバレッジを通じて
 何倍にも悪化させるからです。

 今回のように、いったん資産市場の低下が始まれば、直ちに金利を大幅低下
 させなければ、金融機関の連鎖的な信用収縮が始まるのです。21世紀の今、
 トレーダーの活動は世界に広がり、かつ世界からの資金供給がありますから、
 損失もまた世界に広がります。日本のようにこの流れを止めようとすれば、
 その国の金融市場はたちまちローカル市場に転落してしまいます。

《21世紀世界経済の最大のテーマはサブプライム問題の向こうにある》
 バーナンキ議長の行動は、too little, too late です。市場型経済のメカニ
 ズムを熟知したグリーンスパン前FRB議長は、バーナンキ議長が重視する
 テイラールールやインフレターゲット論といった、常に市場より遅行するデー
 タに基づく政策だけでなく、資産市場の変動と金融機関の流動性危機その
 ものへの対応をしましたから、金融危機を未然に防ぐことが出来ました。
 だから、グリーンスパン時代のFRBは、物価の変化をはるかに上回る大幅な
 金利の変更を行い、2000年には6.5%まで金利を引き上げ、2003年には1%
 まで、5%以上も金利を低下させました。その間、物価は1%しか低下してい
 ないのです。

 グリーンスパン前議長は、古臭い金融理論をはるかに上回る金利の大幅な
 変動をさせることによって、逆に資産市場の変動を何とか抑えていたのです。
 短期金利と資金供給というかなり心もとないアクセルとブレーキで市場を操
 縦するためには、かなり思い切ったやり方をしないと通用しないのです。
 この点を古典的な金融政策の信奉者としか見えないバーナンキ議長が理解
 せず、かつ、市場からの批判に耳を貸さなければ、今年も金利安定、資産
 市場と金融機関は乱高下、という年になるかもしれません。

 そうはいっても、日本と違って、米国は市場経済を理解した人間が分厚く存
 在する国ですから、そんな中央銀行総裁の行動は抑制されると期待します。
 こうして見れば、サブプライム問題は、FRBがよほどひどい対応をしない限り、
 今年中に収束に向かうでしょう。

 むしろ、サブプライム問題の雲の向こうに見えてくるのは、21世紀の世界経
 済の、最大のテーマであるグローバリゼーションを縦糸に、資源問題、イン
 フレ、金融問題、景気、経済成長、各国の競争力といった様々な横糸が絡
 まる姿です。それを読み解いてみましょう。

《物価上昇率の低さは70年代後半〜80年代初めとは決定的に異なる点》
 1980年代までと決定的に違うのは、日本以外の21世紀の世界は、インフレ
 なき経済成長を長期にわたって続けることです。と言うと何をバカなことを
 言うんだ、ガソリンも食料も上がっているじゃないか、米国発の世界不況が
 来るぞ、グリーンスパン前議長もインフレと不景気が一緒に来るスタグフ
 レーションが始まったと言っているぞ、という声が聞こえてきそうです。

 確かに、原油の値段は99年の1バレル10ドル近辺から、昨年末には100ドル
 近くにまで上昇しました。実に10倍です。ところが、それにもかかわらず、
 日本の物価上昇率はほとんどゼロ、上昇傾向の米国でも3%、ひどいインフレ
 と言われる中国でも6%程度、あのブラジルでも5%以下なのです。石油ショッ
 クの翌年の74年には日本では物価上昇率が23%になり、米国では10%以上の
 物価上昇が続いた70年代後半〜80年代初めとは比較にならない低さです。

 むしろ、原油価格が10倍になっても物価全体が跳ね上がらないところに、
 21世紀の世界経済が、強い物価下落圧力の下にあることを浮き彫りにして
 います。

 その最大の原因が、工場での大規模な生産現場はもちろん、ソフトウエアの
 開発や会計事務や証券分析やコールセンターなどのオフィスでの仕事までも、
 従来の先進国での仕事が中国やインドやベトナムなどのコストの低い良質の
 労働力が動員可能な所に移っているからです。それに伴い、工場やオフィス
 などの不動産の立地もコストの低い国や地域に移ります。

《グローバル化は“貧しさ”によるデフレ効果を生んだ》
 先進国企業の労働と不動産のコストが大きく低下してきたのですから、工業
 製品の価格はもちろん、ホワイトカラーの職種の一部であるサービス価格ま
 でも、低下圧力がかかります。だから、いくら石油などの一次産品の価格が
 上がっても、経済全体の価格体系が低下します。すると物価は上がらず、
 マネーの価格である金利も上がりません。

 こうして、労働、不動産、マネーの価格が、加重平均してみれば、世界的に
 低下を続けました。これがグローバリゼーションのもたらすデフレ効果です。
 その最大の原因は、中国やインドなどにおける労働と不動産のコストの安さ
 です。見方を変えれば、貧しさが強力な武器になったのです。

 その反面、先進国では、勤労者の収入が相対的に低下するワーキングプア
 と言われる現象が生まれました。日本においても一億総中流社会が崩壊し、
 格差社会が生まれたのも、最大の原因はこの力学によるものです。

 しかも、ガソリンや灯油、食料、日用品などの値上がりは勤労者や非正規
 雇用層を直撃し、実質所得の切り下げになります。こうした現象への対処の
 仕方で、先進国社会での活力に差がつきます。

《グローバル経済で活動する企業と人が大きな収益を得られる》
 そうなると、世界で最もコストの安い所で生産を行い、先進国を始めとし
 た世界への販売が出来る企業の収益は爆発的に向上します。日本でも、
 キヤノン、商船三井、ファナック、トヨタ自動車、ホンダといった海外での
 売り上げが半分以上を占める、限られた数の世界企業の収益が爆発的に
 向上しているのは、こうしたグローバリゼーションの流れに乗ったからです。
 逆に、国内を主たる市場とする日本の新興企業の多くは、業績も株価もさ
 えません。

 このため、先進国では、世界経済に参加する企業の資本や経営や取引に
 参加する人たちの所得は大きく増加します。企業収益の増加から利益を得る
 経営者や株主はもちろん、金融機関、ファンド、コンサルタント、弁護士など
 の専門職の所得は増えます。

 また、米国のように、国民が幅広く株式を保有する国では株の上昇が資産
 効果を生んで消費を増やします。だから、世界中で贅沢なもの、セレブ御用
 達のものの値段は、リゾート地からワインまで大きく上がっています。

《欧州、アジア諸国を始めほとんどの国で経済成長が加速する》
 こうした世界経済の変化の受益者となるのは、まず、中国やインドなどアジ
 アの大国、そこに積極的に参加する韓国、台湾、シンガポール、ベトナムな
 どのアジア諸国です。

 資源国である中東やロシア、ブラジル、オーストラリア、カナダの成長も続
 きます。サブプライム問題で国内経済の成長が鈍化しても、金融とIT(情報
 技術)という2つのグローバル産業の覇権を握る米国も、企業を中心に再び
 成長の道が見えてくるでしょう。

 ユーロ高で輸出が鈍化する欧州の経済も、多様なパターンではありますが
 成長を維持するでしょう。英国は、グローバル金融の中心地であるロンドン
 を抱え、また世界からの直接投資での地方経済の発展は息が長いでしょう。
 ドイツも、東欧やロシアという発展地域での高いシェアと企業の競争力に
 よって成長を持続するでしょう。イタリア、フランス、スペインといった国は、
 企業だけでなく、観光、高付加価値の農業、ファッション、贅沢品、リゾート
 などへの世界からの高い人気に乗って、豊かなライフスタイルが富をひきつ
 けるでしょう。

 もちろん、ばら色の社会など世界に一つもありません。新興経済大国も先進
 国も発展途上国も、それぞれが深刻な国内問題を抱えています。

 それは、治安やテロから年金や経済格差、少子高齢化、人種問題、健康、
 言論の抑圧、環境、資源など多岐にわたります。

 しかし、世界のほとんどの地域で経済成長が加速し、企業の収益は伸びてい
 ます。それを反映して世界の株式市場は21世紀に入って大きく上昇していま
 す。サブプライム問題が峠を越せば、今年中にも世界経済も株式市場も再び
 成長パターンに入るでしょう。

《「新興国」「エマージング」の常識は過去のものに》
 そのうえで、今年は、世界経済に大きな基調の変化があるでしょう。中国、
 インド、ブラジル、ロシアといった諸国からエマージングとか新興といった
 言葉が取れて、新経済大国、あるいは単に経済大国といった表現が使われ
 だす年かもしれません。好不況の波が大きく先進国経済の波に翻弄される、
 という90年代までの「新興国」「エマージング」の常識は過去のものになる
 でしょう。

 なぜなら、中国を中心に、経済構造が、米国など先進国への輸出型経済から
 国内経済中心、内需中心のものに変わっていくからです。

 この変化は2006年から表れましたが、今年はそれが加速するでしょう。それ
 に伴って、新経済大国の国内企業が大きく成長を遂げるでしょう。中国の
 ように国営企業の民営化によるケース、インドのようにオーナー企業がさら
 に成長を続けるケース、ブラジルやロシアのように国策の資源企業を中心と
 するケースなどに分かれますが、外資企業から国内企業に一層の重心が移る
 でしょう。

 大きく転換するのは、為替です。人民元、インドルピー、ブラジルレアルなど
 の新経済大国の通貨も上昇が続くでしょう。

《人民元の緩やかな上昇が米中の利害に一致しだした》
 特に重要なのは中国の変化です。2005年までの中国の成長は外資企業頼み
 でした。特に人民元を安く保つことは、中国で生産し米国に輸入する主役で
 ある米国企業にとっては大きな利益の源泉でした。中国にとっても、安い人民
 元は外貨獲得の格好の手段でした。

 それは、天安門事件で世界から孤立し外貨がほとんどなかった1989年に比べ
 て、世界一の外貨準備を持つ現在の人民元が対ドルで半分にまで安くなって
 いることに表れています。黒字がたまるにつれて何度も円高の嵐に見舞われ
 た日本と逆の経験です。米中経済がライバル関係ではなく補完関係にあるた
 めです。

 ところが、国営企業や銀行の不良債権処理を終え、国内企業中心、内需中心
 の経済成長に切り替えた2006年からは、むしろ、成長抑制、資源問題と環境
 問題の緩和、国内での格差の是正を行いたい中国と、中国への金融投資で
 収益を上げたい米国の金融界の利害が一致を始めました。

 これまで「米中経済同盟」の象徴であった安い人民元政策は終わり、人民元
 の緩やかな上昇が双方の利益となり始めました。

 新経済大国での為替の上昇は、言うまでもなく、世界の生産者物価を、低い
 レベルからですが、押し上げます。2006年からの世界物価の緩やかな上昇は、
 こうした為替市場の反転と軌を一にしています。もちろん、石油などの一次産
 品、新興国全般での物価と賃金の上昇も上昇圧力になります。

《日本の低成長は少子高齢化だけが原因ではない》
 ところが、こうした世界の成長に大きく取り残されているのが日本です。
 21世紀のGDP(国内総生産)はほとんどゼロ成長であり、株式指数はマイナス
 を記録しています。1980年代終わりには世界の株式市場の時価総額の4割を
 占めていた日本のシェアは、今わずか7%に過ぎません。年金や個人資産の
 伸びも止まっていることになります。今年は、こうした現実に気づいた日本の
 資産が海外への投資に向かい、大きな円安になる年かもしれません。日本の
 低迷の根本的な原因は、今の日本の経済モデルが新しい世界に適合してい
 ないことなのです。

 よく日本の低成長は少子高齢化が原因、と言われますがそんな単純なもので
 はありません。韓国や台湾、シンガポールなどの先進国や中国を含めてアジ
 ア全体で少子高齢化が進んでいるのに、日本だけが大きく経済成長が止まっ
 ているのには、もっと根本的な原因があります。

 このままでは、日本経済の地盤沈下は一層加速するでしょう。かつて日本に、
 消費財の製造業で敗れた米国や欧州は、80年代以降苦労しながら日本への
 敗北から学びました。そのうえで、既存の工業社会に頼らずに成長するため
 に、産業構造と国土の転換を成し遂げました。

 米国では、企業のローカル化とグローバル化の同時進行でした。ニューヨー
 ク以外から新しい世界企業が次々に生まれるようになったのです。そのため
 に、減税と航空、金融、通信のビッグバンを行い、地方からでも世界とビジネ
 スが出来る経済をつくりました。

 欧州はEU(欧州連合)の統合という大事業を成し遂げました。そのうえで、
 文化を生かし、田園を中心とした農業、観光、伝統、環境をミックスした新し
 い経済をつくり上げ、さらに企業もグローバル化しました。新しい欧州の強さ
 がユーロの強さに表れています。

《小泉政権で日本は大改革をしたと錯覚しているだけ》
 ところが、日本は大きな変革をほとんど行っていません。小泉改革の最大の
 功績は、欧米では93年に終わった、財政資金を入れた銀行と大企業の救済と
 整理でした。新しい経済が出来たわけではなかったのです。

 それなのに、痛みが大きかった分、日本が大改革を成し遂げたような錯覚に
 陥っていました。だから、80年代で有効性が終わった東京一極集中の製造業
 中心、輸出中心の国家モデルから脱却していません。ところが先進企業は
 海外に出ていきますから、国内経済の空洞化は着実に進んでいるのです。

 それでいて、高速道路に代表されるように、国内のコスト構造は高いままで、
 文化やサービス産業や観光、農業など欧州型の産業は育っていません。

 一方、80年代まで強かった情報通信ハイテク分野も、携帯電話やPCに見る
 ように、国内の特殊な市場に満足しているうちに、世界でのシェアは続落し
 ました。今強い自動車でさえ、中国やインドでの低価格車が今後品質を向上
 し量産効果で低価格になれば、優位が揺らぐことも予想されます。

 根本的問題は、新しい世界企業が日本からは生まれないことです。時価総額
 上位50社のうち過去30年以内に一から生まれた企業はソフトバンク1社のみ、
 これでは、経済成長しないはずです。かといって、アジアなどの成長を取り込
 むはずの金融業は、一層内向きの対応に追われ、日本市場の地盤沈下は、
 目を覆うばかりです。

《日本経済の没落に向き合えるかが問われる年に》
 もちろん、レーガンやケ(トウ)小平が実行したような企業と投資への減税
 や地方への思い切った経済の拠点の移動の気配もありません。地方からの
 経済成長など、日本のエリート層では本気で考えられていないのでしょう。
 政府が議論するのは増税であり、日銀が議論するのは金利引き上げです。
 実行されれば、さらに景気は落ち込むでしょう。

 日本の国力の低下はあちこちで見えてきました。子供の学力と体力の低下、
 貴重なはずの少なくなる若者の相変わらずの厳しい将来、3万人という世界
 最大級の自殺者数、自治体の破綻、国家財政の累積赤字…。

 そんな中、団塊世代の退職が続きます。今までの企業戦士が、ゼロ金利の
 中でどうやって自分の老後を守るのか真剣に考えたときに、いよいよお金が
 海外への投資に向かうのかもしれません。そうなれば、弱いとされるドル以
 上に円が弱くなるのが世界の為替市場の基調になるかもしれません。そして、
 今の高齢者は急速に貯蓄を取り崩すようになってきました。
 いよいよ、日本経済で貯蓄不足の時代が始まるのかもしれません。そんな
 目の前の経済没落に対して、真正面から向き合い逆転の解決策を皆で実行
 するのか、それとも目をそむけるのか、日本が問われる年になるでしょう。

 お先真っ暗でしょうか。でも、悲観することはありません。夜明け前が一番
 暗いのです。現状認識から変化が生まれます。日本はこのままではダメだ、
 という危機感が最初の一歩です。それに、日本には再生のための材料は
 たっぷりあるのです。

《歴史的にも世界に誇れる日本人の能力を今こそ生かす時》
 世界第6位の経済水域に囲まれ、外敵の進入を受けにくい国土、世界最速の
 成長を続けるアジアの中の位置、変化に富む気候と森と田畑と川と海の循環
 を守ってきた歴史、こうした基礎条件が砂漠になった多くの大文明との決定
 的な差です。資源と環境を守る国民性は、経済優先の風潮の中でも生きてい
 ます。

 そして、なんといっても、多くの点で世界一の優秀さを持つ国民の力があり
 ます。ポルトガルが鉄砲を伝えて100年以内に世界一の鉄砲生産国になった
 技術の伝統は、今も自動車やロボットなどの最先端のものづくりの世界に
 生きています。

 感性と芸術性を合わせた独創性でも、世界に冠たる民族です。茶、花、庭、
 盆栽、焼き物、日常生活を芸術に高めることでは世界の追随を許しません。
 アニメや漫画、ゲームなどで世界の若者が熱狂するカルチャーも生み出しま
 す。

 世界のいいものを自分のものにする力も持っています。ミシュランは、東京
 に最大の星の数を与えました。世界中の料理を自分のものに出来る民族は、
 日本人だけです。この点では、世界一柔軟な国民です。

 日本には、アジアを始めとした世界との交流にももともと長い歴史があります。
 日本からの遣唐使や、中国から仏法を伝えた鑑真和上は、ともに命がけで日
 中の交流をしました。天武天皇に娘を輿入れさせるほどの名家で、漁業から
 出発して朝鮮半島や中国からペルシアに至る交易で海の正倉院と呼ばれる
 沖ノ島の国宝8万点の財宝を築いた宗像(むなかた)氏も同様です。
 
 また、中国や韓国との交易を広げた平家が開いた神戸や、大内氏が伸ばした
 博多、南蛮貿易の拠点であった堺や平戸、台湾や中国と交流した琉球王国の
 歴史を持つ沖縄、日本の海の交易の中心だった酒田、ローマ法王まで使節を
 送った伊達政宗の仙台など、国際交流の拠点であったところは日本に数え切
 れないほどあります。

 問題は、今の日本人が世界の経済の変化を理解していないことです。それで
 いて、20世紀の記憶にとらわれています。新しい世界経済のゲームのルール
 が見えてくれば、日本人は最高の適応能力を発揮するはずなのです。頑なに
 ならずに、柔軟で広い視野で世界を見ることが日本再生への道につながるで
 しょう。

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