関係者様

暖冬とはいえども寒い日が続きますが、皆様お元気でいらっしゃいますか。

では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信_______________2008.1.18_
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┃タタとビジオ、2つの衝撃
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《新しい経済のルールに日本はいかに備えるべきか》
 新年早々、これから日本経済に大きな打撃になり得ることが、2つありました。

 1つは、インドのタタ自動車が30万円以下の自動車を、インドのモーターショー
 で発表したのです。もう1つは、米国のビジオが、日本で低価格の大画面薄型
 テレビを販売することを発表しました。

 いよいよ、グローバル経済の価格破壊の波が、日本の得意分野である自動車
 とテレビに押し寄せ始めました。もちろん、最初の波ですから、さざ波くらい
 にしか見えないかもしれません。

《普及品の主戦場は新興国へ移った》
 タタの売り出す自動車は、インド国内でしか販売の予定はありません。
 日本や欧米での安全基準などを満たすことができないからです。ドアミラーは
 運転手側だけ、ワイパーも1本、最高速度も時速100キロ程度、エアコンも付い
 ていない車ですから、そのまま日本で売れることはないでしょう。

 ビジオの計画にしても、現実性は今のところよく分かりません。品質や顧客
 満足度、アフターサービスなど、日本の消費者の厳しいチェックにパスするか
 どうかは未知数です。

 でも、世界経済は確実に変わりつつあります。タタが示したのは、世界市場
 の主戦場が、普及品については、自動車といえども人口の多い新興国に移る
 ことです。そこでは、日本などの先進国に比べてはるかに安い製品でないと、
 一般国民からは受け入れられません。

 インドでは、日本のスズキの子会社であるマルチ・スズキ・インディアが、
 自動車でトップシェアを築き上げました。工場やオフィス勤めのサラリーマ
 ンが、年収の範囲で買える品質のいい車を作ってきたことが成功の原因で
 した。マルチの自動車はかつてのトヨタ・パブリカを思わせます。
 そこに、タタ自動車が、さらに安い車を引っさげて殴りこみをかけたわけで
 す。

 インドを旅すると、どこでも、トラックやバスは圧倒的にタタのブランドです。
 さらにタタは、インド最大の製鉄会社をはじめ、自動車に関連し得る様々な
 企業を傘下に持つインド最大の財閥です。そのタタ・グループの総帥
 ラタン・タタ氏自らが新型車を運転してモーターショーに現れたところに、
 意気込みが感じられました。

《戦後の日本が歩んだ道をたどる新興国》
 新年の山崎通信にも書きましたが、2006年ころから顕著な現象は、中国や
 インドを先頭とした新興国での国内企業の台頭です。それまでブランドや
 技術で外国企業が圧倒的だった分野でも、今後は国内企業のシェアは
 伸びるでしょう。

 そして、いったん国内での競争に成功した新興国の企業は、他の新興国、
 そして、欧米や日本などの先進国市場でのシェアを拡大し、世界市場での
 地位を築こうとするでしょう。まさに、戦後の日本企業がたどった道です。

 日本との大きな違いは、国内市場が圧倒的に大きいことです。中国とインド
 だけで人口は24億人に迫り、日本の約20倍です。国内市場だけで巨大な量
 産効果があります。

 今は品質や技術で劣っていても、量産効果と研究開発投資によって、新興
 国企業がやがて先進国企業に肩を並べていくのは時間の問題です。
 世界一になりつつあるトヨタ自動車をはじめとした日本の自動車メーカーに
 とっても、潜在的には大きな脅威になり得ます。すでに日本国内の自動車
 市場において、軽自動車やコンパクトカーが販売の上位を占め、低価格、
 低燃費が消費者の最大の関心になっているからです。世界的な価格破壊は、
 やがて日本にも及ぶでしょう。

《価格破壊の脅威にさらされる日本車》
 トヨタは、最初に米国に進出したときにハイウェーでエンストが続出し笑い
 ものになった苦い経験を克服し、安くて燃費のいい自動車を作り上げてから、
 高級車の市場にもシェアを広げました。

 今度は、日本車が新興国車の価格破壊の脅威にさらされる番になるでしょう。
 完成車の価格が大幅に低下すれば、日本が得意とする部品の価格も下がり、
 日本の広範なメーカーに影響が及ぶでしょう。

 ただ、トヨタのような強力な企業にとっては、世界全体のビジネスを伸ばす
 余地はまだまだあります。ロシアや中東では、高級車をはじめとした自動
 車需要は拡大を続けています。さらに、ハイブリッドなどの環境技術でも、
 日本が世界をリードしています。

 さらに、日本メーカーは、スズキを筆頭にインドでの生産と販売を拡大し、
 中国でも拡大しています。現地メーカーとの合弁などの協力余地もありま
 す。

 それでも、これまではアメリカのビッグ3を追う立場だった日本の自動車会
 社が、これからは、強力な新興勢力に追われる立場に立ったことは確かで
 す。

《自社工場を持たずに低コスト生産を実現するプロデューサー》
 米国の会社であるビジオが攻めてくる、薄型テレビの場合は、自動車と
 は状況が違います。日本メーカーへの影響は、すぐに深刻になり得ます。
 デルがパソコンで成功したことを、ビジオがテレビで行おうとしているか
 らです。

 ビジオは自社では工場を持たず生産も行いません。製品の設計やマーケ
 ティングと販売管理などに専念します。日本や韓国のメーカーに見劣りし
 ない品質のテレビをはるかに安い価格で提供できるのは、低コスト生産が
 できる台湾などの専業の部品や組み立てメーカーから大量の買い付けを
 行い、コストダウンを実現しているからです。

 台湾メーカー自体は、中国などに低コストの生産基地を作っています。
 ビジオは、メーカーというよりも、多重的な低コストの構造を構成する多く
 の企業を束ねるプロデューサーです。ほとんどすべてのプロセスを自社で
 生産する日本メーカーより、構造的なコスト競争力を持っています。

 すでに日本の家電市場は、メーカーよりも巨大販売店などの販売側が力を
 持ち、さらにネットなどでの消費者への直接販売が増えてきている市場で
 す。ブランドよりも価格と品質によって買うものを選ぶ消費層がいる市場な
 のですから、ビジオの製品が受け入れられる余地があるかもしれません。

《かつて欧米が味わった悩みを今度は日本が…》
 日本の生産者、勤労者、という立場から見ると、タタとビジオは潜在的な脅
 威です。日本メーカーが莫大な資金を投じて作る、国内の工場のコスト競争
 力が失われてしまうかもしれないのです。大幅にコストを下げるには、改善
 や効率化だけでなく、人件費の削減、さらには、工場の海外移転、そして、
 台湾などのメーカーへの外部委託すら、選択する必要が出てくるかもしれま
 せん。

 こうした悩みは、実は、過去に、日本の製品に消費者を奪われてきた欧米の
 メーカーとそこで働く人たちが、味わってきたことでもありました。
 欧米では、様々な対応をした企業がありました。米ゼネラル・エレクトリック
 (GE)のように、創業者エジソンのころから技術革新を続け、世界で常にトッ
 プかその次のビジネスだけを続けているすごい企業もあります。
 でも、そんな企業は例外です。

 多くの欧米企業は、自国の工場を閉じて海外に移しました。その分、国内の
 職は失われました。また、日本の製品を入れまいとして、政府に圧力をかけ、
 貿易摩擦を起こす企業も多くありました。けれども、政治の圧力で企業が復
 活することは稀でした。そして、日本との競争をあきらめて撤退してやめて
 いく会社が多くありました。

《それでも欧米諸国は国民所得を伸ばした》
 それで、欧米は日本よりはるかに貧しくなったでしょうか。そうはなりませ
 んでした。それどころか、1990年代以降、多くの欧米諸国の1人当たり国民
 所得は日本よりはるかに伸びました。

 米国や英国のように、グローバリゼーションや世界での金融力で繁栄した国
 がありました。フランスやイタリアやスペインのように、製造業やサービス業
 だけでなく、歴史や文化、伝統や農業や田園の魅力を、観光や不動産や投資
 に結びつけて成功した国もあります。

 フィンランドやアイルランドのように、子供の教育や若者の訓練に力を入れ
 て、IT(情報技術)や先端産業に強い国に変身して成功した国もあります。
 デンマークやオランダのように、農業が強力な国もあります。
 ドイツのように、先端技術、観光、環境、農業などで幅広く伸びている国も
 あります。

 共通しているのは、成功した欧米の国は、日本に押されたときに、自分独自
 の強さを生かし、世界を相手にした経済を進めることで、豊かになりました。

《企業という形だけにこだわらない世界トップをねらう新たな経済体を》
 自分探しを徹底し、世界の中の自分の値打ちを見つける、過去の栄光を生
 かすだけではない、自分の値打ちを多くの分野で発見することが、これから
 の日本に必要でしょう。

 日本の自動車やITや家電の業界は、世界の企業との死闘を演じなくてはい
 けないのです。日本国民の利益を優先する余裕はなくなるかもしれません。

 日本経済が変わらなくてはいけないのです。いつまでもトヨタやキヤノンや
 シャープに頼らずに、新しい世界トップの経済体を作らなくてはいけないの
 です。それは、企業でなくてもいいのです。
 農家でも、大学でも、研究所でも、病院でも、旅館でも、いいのです。
 組織である必要すらありません。サッカー選手でも、環境学者でも、医者でも、
 アニメ作家でも、ジャーナリストでも、音楽家でも、画家でも、詩人でもいい
 のです。

 海に囲まれ、古来の独自の文明を持つ日本は、また、世界各地の文明の
 冷凍庫でもあります。今は滅びた多くの大文明の痕跡が各地に残ります。
 それは、ものだけではありません。言葉に、伝承に、思想に、芸術に、生活
 に、今も息づいています。

 人の営みは、経済になります。例えば、美は経済になることを、フランスや
 イタリアやスペインやニューヨークの人たちは示しました。
 美からだけでも、日本には、経済の種がいっぱい転がっているのではない
 でしょうか。

 肝心の日本人が目を転じないから、日本経済も、日本株も、一人、没落を
 続けています。


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