関係者 様

吹く風一段と身にしみるこのごろ、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信_______________2008.2.1__
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┃バーナンキ暴落は終わりに向かう
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《高成長を続ける21世紀型の経済構造は不変》
 昨年の8月から、米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融
 資)問題の深刻さが明らかになるにつれて、世界の株式市場は大きく下がり
 ました。下落の割合として見ると、ここまでの暴落は、1987年のブラックマン
 デー、90年の世界の不動産バブルの崩壊、そして、2001年のIT(情報技術)
 バブルの崩壊に並ぶものです。

 97年のアジア危機や翌年のロシア・LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジ
 メント)危機よりも大きいのですから、ショックの大きさがわかります。

 ただ、暴落はこれから収束に向かい、世界の株式市場は上昇に向かうでしょ
 う。

《実体経済も株式市場も暴落する状態ではない》
 なぜなら、今回の暴落は、バーナンキ暴落だからです。米国の短期金利をつ
 かさどり、世界の資産市場と実体経済に様々な経路を経て影響力を持つFRB
 (米連邦準備理事会)が、株式市場の下げを過小評価し、最大の政策手段で
 ある短期金利を状況に応じて下げなかったから暴落が起きたのでした。
 バーナンキ議長のFRBの too little, too late が事態をここまで大きくしたの
 です。

 逆に言えば、実体経済も株式市場も、ここまで暴落するような状態ではない
 のです。

 90年代の世界の不動産バブルの崩壊は、今回のサブプライムローン問題と
 は比較にならない深刻な事態でした。日本では、ほとんどの銀行がマヒ状態
 に陥りました。米国でも、シティバンクなどの大手銀行が倒産の危機に瀕し、
 地域のS&L(貯蓄貸付組合)の実に4分の3が倒産しました。欧州諸国の傷も
 深く、北欧では多くの大手銀行が破綻し国有化されました。

 それに比べれば、今は世界の不動産への暴落の連鎖も、主要な世界の金融
 機関の連鎖倒産も起きていません。それどころか、損を出した米国の金融機
 関に有利な条件で出資しようとする外国の資金があふれています。

《不動産バブル、ITバブルそしてインフレもない》
 2001年のITバブルの崩壊も深刻でした。世界の株式市場が、企業の収益を
 過大評価していたからでした。新興企業が多いNASDAQでのPER(株価収益
 率:株価が利益の何倍かという倍数)は、2000年のピークには200倍を超え
 ていました。日本でも似たような事態でした。

 IT企業といっても、収益がなくては株として買えない。この当たり前のことに
 市場が目覚めて、株価水準の調整が完了するには3年もかかりました。

 その時に比べれば、今の株価水準は、利益に対して見ると2000年以降最も
 割安です。NASDAQのPERは32倍です。予想利益に対しては23倍に過ぎませ
 ん。株式市場はバブルではないのです。

 そして、今の米国のインフレ率は、4%程度です。10%を超えていた80年代
 初めと比べれば、格段に低いレベルです。

 つまり、不動産バブルの崩壊も、株式バブルも、インフレもなかったのに、
 昨年から米国株が暴落して世界の市場に伝播したのです。

《自らの力とその限界がわかっていないバーナンキのFRB》
 最大の原因は、株式市場の下落と金融機関の損失に鈍感で、速やかな金利
 下げを実行しないFRBに対して、恐怖感を抱いた市場参加者が資金を一斉に
 引き揚げたことでした。FRBショックとも言っていいものでした。

 なぜなら、グリーンスパン前議長時代のFRBに比べて、バーナンキ議長が率い
 るFRBは、市場の上下動自体が持つ経済変動への影響、さらにFRBの力と
 その限界がわかっていないか、わかっていても行動に移さないからです。

 21世紀の世界経済の最大の変動要因は、市場自体です。賃金や物価では
 ありません。株や不動産の市場変動が消費や雇用に影響を与える度合いが、
 格段に大きいのです。平たく言えば、株や不動産が暴落すれば、資産を持
 つ人の消費が大きく下がり経済に影響を及ぼすのです。その逆に、市場の
 上昇が消費と投資を活発にします。

 ですから、市場の変動そのものを小さくすることが、経済変動を小さくする
 ことになるのです。ただ、FRBが持つ道具は、市場自体ではありません。
 動かせるのは短期金利だけなのです。市場という大きなものを、短期金利
 という小さなもので動かすには、小さなものである短期金利を大きく動かさ
 なくては効かないのです。

 短期金利を大きく下げれば、長期金利に波及してローンで買う家や自動車
 の実質価格が下がり、金融機関の仕入れコストと収益はレバレッジを通じて
 大幅に改善します。そうした政策金利の波及経路を瞬時に予測して、市場
 はようやく好転に向かうのです。

《金融理論だけに従った決定は暴落を招くと実証》
 この点が、世界のセントラルバンカーや金融学者の多くの人がわかって
 いない点です。その最たるものが、テイラールールやインフレターゲットと
 いわれる政策金利の決定方法です。物価や雇用や消費などの指標を見て、
 総合的に判断して、それから金利を動かしましょう、というものです。

 そんなものに従っていたら、中央銀行の行動は、常に、too little, too late
 になります。優秀な金融学者であるバーナンキ議長は、現にそうした理論に
 従ったら、株式市場の暴落を招くことを実証しました。

 グリーンスパン前議長は、金融理論のドグマに従いませんでした。金利を
 早めに思い切って変動させることで、市場と経済の変動を低下させました。
 2001年のITバブル崩壊のあとは、1年間で4.75%も政策金利を下げました。
 もし、グリーンスパン前議長がテイラールールに従っていたら、その間政
 策金利はほとんど動かせませんでした。

 グリーンスパン前議長が動いていなければ、世界の株式市場の崩壊は
 深まり、世界的な金融恐慌に結びついていたでしょう。

 また、グリーンスパン前議長は、不動産市場のバブルが明らかになった
 2004年からは、2年間で4.25%の大幅な金利の引き上げをしました。
 これも、テイラールールを大幅に上回る引き上げでした。

 その効果が出て、昨年から不動産市場のバブルが崩壊したのです。
 後任のバーナンキ議長は、不動産下落の影響が株式市場や実体経済に
 過度な影響を与えないように、今度は思い切った金利低下を、早く大きく
 行う必要があったのでした。

 しかし、そうしませんでした。それで、too little, too lateと評価されたの
 です。

《ついにテイラールールをかなぐり捨てた》
 失望のピークが1月18日の金曜日に来ました。バーナンキ議長は議会証
 言で、財政当局の努力に期待すると言ったのです。金利政策の責任者た
 るFRB議長が行動を示さなかったことへのショックが広がりました。

 東京から始まる翌月曜日の世界の株式市場は暴落を始めました。
 休日だった米国でも、24時間取引で米国株の暴落が続きました。

 追い込まれたバーナンキ議長は、休み明けの1月22日に、グリーンスパン
 前議長も行ったことがない、0.75%という大幅な政策金利の引き下げを発
 表しなくてはいけなくなったのです。テイラールールなど、かなぐり捨てな
 ければいけなくなったのです。

 米国の大幅金利下げに応じて、世界の株式市場は大幅に反発しました。
 ようやく、少しの落ち着きを取り戻したようです。でも、バーナンキ議長が
 市場の信任を得るには、長い時間がかかるでしょう。

 しかし、世界経済が高成長を続ける構造は不変です。低インフレと企業
 収益の増大という21世紀の経済構造が変わらないからです。株式市場も
 バーナンキ暴落を乗り越えていくでしょう。

 その点で、バーナンキ議長は、はるかに難しい状況に立ち向かった歴代
 の議長より、ラッキーです。そして、市場と経済との関係をよく知る政策
 決定者と市場関係者の分厚い層が存在する米国は、中央銀行総裁に、
 責任に見合った行動を取らせる力を持っています。

《市場も経済も外国頼みの日本を危惧する》
 こうした点は、昨年12月の「FRBバーナンキ議長がラッキーなわけ」と年初の
 「高成長に戻る世界経済と取り残される日本」の中でも指摘していますから、
 よろしければ参照してください。

 危ないのは日本です。世界経済の変化に適応した形に、経済と国土の構造
 を変えていません。高速道路の無料化すらできないことの問題は、何度も
 指摘した通りです。

 日本では現実に市場の下落と経済低迷が進行しています。海外では、日本
 がまっ先に不況入りしたと報じています。ところが、日本の中央銀行も政府
 もほとんど何の手も打っていないのです。なぜ、せめて金利低下と金融緩和
 を復活しないのか、理解に苦しみます。市場も経済も頼りは海外、そんなこ
 とでは日本は世界にますます取り残されるでしょう。


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