関係者様
若草の萌え出す季節になりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。
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____山__崎__通__信_______________2008.4.18_
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┃白川日銀総裁への重大な疑問〜国益を担う職の選考に欠けた本質的な議論
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戦後初めて日銀総裁が空席になるという異常事態の果てに、日銀出身の
白川方明氏が総裁に就任しました。
言うまでもなく、日銀総裁は日本経済の運命を左右する重大なポジションで
す。時にその影響は総理大臣を上回ります。ですから、日銀総裁の選考に
当たっては、何よりも金融政策の運営の実績と、実際の経済環境の変化に
どのように対応するのか、見識と実行力を多角的に検討すべきです。
特に、米国発のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題
で世界の金融システムが大揺れになる中、日本がどのように対処すべきか、
日銀総裁候補に見解を聞いて判断すべきでした。
《出身母体と政治力学で生まれた総裁》
かつて、経済が国内の銀行を中心に回っていたころは、中央銀行の仕事は
今よりずっとシンプルでした。銀行の預金金利は規制され、企業にも銀行以
外の資金調達手段は乏しかったので、金利などの操作をすれば金融政策が
経済に浸透しました。米国で言えば1960年代、日本で言えば70年代までが
そんな古い時代でした。
しかし経済が市場化し、そしてグローバル化したことで、先進国の中央銀行
総裁の役割は大きく変わりました。それまでの預金者が世界の様々な資産
への投資家に変身し、企業は証券市場や資産市場、国際市場での資金調
達を行い、不動産や石油までもが証券取引の色彩を強めると、金融政策の
運営ははるかに複雑になったのです。
中央銀行の金融政策と世界の様々な市場が共鳴し合って、世界経済を変動
させていくことは、今回の米国発のサブプライムローン問題を見ても明らか
です。市場が破裂して米国が金利を急低下させ、日本が金融緩和を行わな
いでいると為替市場が円高に大きく振れ、日本経済が不況色を見せている
のも、市場と金融政策の相互作用の一例です。
そして、様々なバブルを生むのも、それを崩壊させるのも、最大の要因が
金利水準と経済でのマネーの供給量にありますから、バブルを抑制するの
も破裂したバブルの影響を最小限にとどめるのも、少なくとも米国では中央
銀行の守備範囲になってきました。
中央銀行の総裁には、市場との対話能力と国際性、民間とのネットワーク
などの新しい能力が求められる理由です。おいそれとはそんな人材は見つ
かりませんから、米国でさえ、グリーンスパンFRB(米連邦準備理事会)議長
が19年間も務めました。とても、順送りで決めるようなポストではありません。
日本でも、銀行中心の閉鎖された国内の金融政策だけを考えればいい時代
は終わり、内外の変化に迅速に対応し、世界経済の中で日本の国益を確保
出来ることが、日銀総裁として必須になったのです。
村上ファンドへの出資などの問題はあったものの、福井俊彦前総裁が対応
能力において、諸外国の中央銀行総裁と比較してもかなり高い評価を得て
いたのは確かです。その総裁を交代させるのですから、高い基準が必要な
はずでした。新しい総裁は、前任の福井総裁に少なくとも劣らない能力と見
識を持っていることの確認が必要でした。
残念ながら、新しい日銀総裁は、そうした実質基準に基づいた選考プロセス
ではなく、出身母体と国会の政治力学によって生まれました。
残念なことです。
そして、白川新総裁には重大な疑念が残ります。
《新総裁の見解について何も議論されていない》
第1に、現在の金融政策の方向性です。これまでの状況の変化に応じて、
思い切った金融緩和策を打ち出さなくては、日本経済は一層不況色を強くす
るでしょう。今の金融政策について是非聞いてみたいところです。
2000年に日銀が金利引き上げを強行し、半年後に撤回してゼロ金利に戻っ
たことがありました。銀行の不良債権処理が終わる前なのに日本経済が最
悪期を脱したかのような状況判断をしたことが失敗の原因でした。
白川総裁は、当時は政策責任者として、金利引き上げを主張したと報じられ
ました。真相はどうだったのでしょうか。議論されていないから我々は知りよ
うがありません。
そして、今が問題です。昨年の8月からのサブプライムローン問題による金
融と株式市場の危機に対して、またしても日銀は有効な手立てを講じてきま
せんでした。
一方で、大幅な金融緩和と政策の総動員を行う米国の金融政策がドル安を
生み、日本には円高ショックとなってやってきました。日本株の下落は円高
で加速されました。加えて、昨年来の政策不況が続いています。
建築基準法の改正や消費者ローンの金利規制は景気に悪影響を与えてい
ます。
そのような中、日銀では、いつ金利を上げるべきかの議論を繰り返してきま
した。過去においても、福井総裁が打ち出した量的緩和などの金融緩和策
にも日銀内には根強い反対論がありました。問題なのは、白川新総裁がそ
うした古い日銀流金融理論に執着する金利引き上げ至上主義の立場に近
いと見られていることです。
事実なのでしょうか。これも議論されませんでした。国会での議論は1時間余
りで終わったのです。今また、金融政策は岐路にあります。
経済の実態、さらには、市場と経済、日本と世界の相互作用についての白川
新総裁の見解はどうなっているのでしょうか。
こうしたことがこれまで議論されず、新総裁が決定されました。このままでは、
経済と市場の変化への成否でしか、白川新総裁の適性を知る手段はないの
でしょうか。
《90年代初めに政策立案の立場に》
さらに、1990年代以降のバブルの崩壊から日本が抜け出せなかったことへ
の責任や見識についても知りたいものです。白川新総裁は、90年代の初め、
日銀の重大な政策判断の誤りによって、日本経済が金融と実体経済の複合
不況に入った時の日銀で政策立案の立場にあったからです。
今振り返れば、三重野康総裁時代の日銀の金融政策は異常でした。89年
からの日銀の金利引き上げや大蔵省と共同での金融引き締めが効果を発
揮して、90年の初めから日本の株式と不動産は暴落を始めました。
世界的にも、不動産バブルの崩壊が始まっていました。
ここから日本の当局だけが異常な行動に出ました。米国のFRBのグリーン
スパン議長は、バブルの崩壊が始まると今度は速やかに金利低下と金融
緩和にギアを切り替え、銀行などの金融機関の連鎖倒産を防ぐことに全力
を挙げました。米国の政策金利であるFF金利は89年には9.75%まで引き
上げられていましたが、90年末には7%まで低下しました。
そして、93年末には不動産バブルの処理は終わり、金融緩和の時代も終
わりました。米国の株式市場が、大底を打って反転したのはそれよりはる
かに早い90年10月であったのはこれまでにも指摘しました。
ところが、日銀は日本で戦後最悪の株式と不動産の暴落が始まったのに、
なんと金利を引き上げ続けたのです。結局、日銀が金利引き上げをストッ
プしたのはバブルの崩壊から1年半もたった91年7月だったのです。
その後も日銀はスローでした。金融引き締めから金利を最低水準までに
踏み切るのに10年もかけたのです。
《日銀の政策の誤りが日本の成長を阻んだ》
その間に、かつては世界一になるかと思われた日本の経済も金融システ
ムも壊滅的な打撃を受けました。資本主義経済の根幹である株式市場は、
ピークから8割も低下し、国富であるはずの不動産も大暴落しました。
日本経済の力は失われ、今も打撃から回復していません。
もちろん、80年代のバブルはつぶれるべき運命にありました。そして中国
をはじめとした途上国が発展し、先進国の優位性は減りました。
しかし、それは世界的現象でした。欧米諸国も、バブルの崩壊とグローバ
リゼーションの荒波に洗われました。
しかし、先進国の中で、日本だけが90年代半ばからの成長に取り残されま
した。日本だけがここまで傷を広げた大きな原因の1つは、金融政策、特に
日銀の政策の誤りであることは明らかです。しかも、デフレの対応も後手に
回り、国民を塗炭の苦しみに陥れました。
問題は、白川新総裁がそうした日銀の政策の立案者かつ責任者の立場に
あったことです。この重大な失政の責任も議論されませんでした。
何もテレビの前でさらし者にする必要はありません。多くの審議は専門家が
中心になって、客観的な観点から行えばよいと思います。その議論の積み
重ねのうえで、国民の代表である議員が公正に審議をしてはいかがでしょう。
経済の司令塔である日銀総裁の決定には、国益が懸かっているという認識
が広がらなければいけないと思います。
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