関係者様

梅雨の晴れ間の青空が新鮮です。皆様いかがお過ごしでしょうか。

では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信_______________2008.6.30_
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┃ブラックホールに飲み込まれる消費税
┃            〜増税しても破綻への道を行く日本の年金運用
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 福田康夫首相が取り上げたように、いよいよ消費税の増税に向けた議論が
 始まりました。

 確かに、消費税増税は避けては通れない道なのかもしれません。団塊の
 世代の引退が進めば、人数が少ない現役世代からの税金や保険料では、
 年金や健康保険を支えていくのは難しくなります。引退した世代に比べて、
 40代以下の現役世代は、生涯の社会保障の収支が大幅に悪化します。

 すべての世代の消費に課税する消費税は、少子高齢化で急減していく社会
 保障の財源を確保するためには、合理的と考えられます。それに、50歳以上
 の世代が日本の個人金融資産の8割は持つと言われます。お金を持つ人は
 それだけ消費するでしょうから、消費税の増税は世代間の負担を均等にする
 効果もあるでしょう。

 しかし、消費税の増税は、政治家にとっては巨大なリスクであることは
 まぎれもない事実です。消費税を導入した竹下登政権、消費税を増税した
 橋本龍太郎政権のいずれもが退陣に追い込まれています。それほど国民の
 反発の強い政策です。自民党と民主党の大連立という構想の根拠の1つとして
 挙げられたのも、消費税増税が容易になることでした。

 ところが、一方で決死の覚悟で消費税増税を検討しているのに、肝心の国が
 運営している厚生年金と国民年金の150兆円もの資産運用で、このままの
 資産の配分方法では、年金受給者が逸失している利益が、年間2兆円近くに
 なるのではないでしょうか。消費税の年間の税収は10.6兆円ですから、
 消費税1%の増税に匹敵する金額です。この得べかりし利益は「年金の
 ブラックホール」と言えます。

 消費税の増税を行う前に、年金のブラックホールをふさがなくては、増税を
 してもすべてこのブラックホールに吸い込まれることになりかねません。

《ブラックホールを拡大した「国債引き受け」》
 年金のブラックホールを拡大してきたのは、財政を担当する財務省と年金を
 担当する厚生労働省との間の「年金による国債引き受け」という慣行なの
 です。ほとんど固定的に、150兆円の年金資産の3分の2の100兆円を1%台の
 超低金利の国債に入れているために、その部分が国民に約束した利回りに
 大きく不足し、逸失利益が発生しているのです。

 高度成長と高金利の時代の財政投融資の慣行をそのままにしているからです。
 15年も続く超低金利時代になっても、国民の年金資産に金利1%台の国債を
 引き受けさせ、年金の財政に巨大な逸失利益を発生させているのです。
 もちろん、年金財政の赤字は国全体の財政赤字を膨らませ、消費税などの
 増税圧力を高めます。財政赤字削減の先頭に立つはずの財務省が、国債の
 安定消化というお家の事情を優先させて、年金財政の赤字を拡大する仕組み
 を推進してきたのです。なんと皮肉なことでしょうか。

 ここまで読んで、いったい何のことだ、国民の年金を運用しているのか、
 そんな危ないことをやっていいのか、運用するなら安全確実な国債で運用
 するのは当然ではないか、と思われる方もおられるかもしれません。
 説明しましょう。

 そもそも、日本の公的年金は、若い時から年金加入者と雇用者が積み立てた
 保険料を、政府の責任で一定の利回りで資産運用することを約束した、
 国営の金融事業なのです。民間の積み立て型の生命保険や年金と本質的には
 同じです。そして、国民の保険料を積み立てた資産が今150兆円あるのです。
 もちろん、年金加入者である国民の財産です。

 政府による年金積立金の運用収益の前提として利回りのこと、そして給付
 設計における利回りを予定利率と言います(生命保険会社でも同じ考えを
 使います)。日本の年金の予定利率は、1997(平成9)年度に厚生年金基金
 制度の財政運営基準が全面的に改正されるまでは、長い間年率5.5%でした。
 つまり、毎年入ってくる保険料を年率5.5%で運用することを約束してきた
 のです。ずいぶん高い利回りを保障したものです。

 さすがに、その後年金の予定利率は2000〜2002(平成12〜14)年度のマイ
 ナス運用利回りを経て、給付減額という大きな痛みとともにまず4.0%に、
 さらに年率3.2%に引き下げられました。2004(平成16)年以降に入って
 きた保険料は年率3.2%で返すことを政府は国民に約束しているのです。

 そんな高い利回りを約束するからいけないのだ、実勢に合わせて1%くらい
 の約束に変えたらどうだ、と思われるかもしれません。でもそうなると、
 さらに、年金の保険料を大幅に上げるか、年金の受け取りを大幅に下げる
 ことになります。とても受け入れられないでしょう。日本の年金制度は
 積み立てた保険料がかなりの高さの運用利回りを上げることを前提に
 成り立ってきたのです。

 これがどういうことを意味するか、例を使って説明しましょう。22歳で
 保険料を払いだし、その43年後に65歳で年金を受け取り始める人が、毎月
 3万円の保険料を43年間払い続けたとします。払い込む保険料は3万円×
 12カ月×43年間で1548万円になります。

 政府の予定利率が年率5.5%であれば、65歳までの複利計算をすると約6200
 万円になっていなくてはいけないのです。払い込んだ保険料の4倍です。

 もし予定利率が4%であれば、65歳になった時には約4100万円になっている
 ことになります。予定利率が1.5%下がっただけで約2100万円もの差がつくの
 です。それでも、払い込んだ金額の2.6倍にもなります。

 それが、政府が国民に約束した債務です。

《年金運用では国民の利益が最大化されていない》
 しかし、年金資産の運用利回りが、今の10年国債の利回りである年率1.5%に
 しかならなかったどうなるでしょうか。この人が払い込んだ1548万円の
 保険料は、約2200万円にしか増えません。予定利率が5.5%で約束していた
 場合と比較すれば約4000万円、4%と比較すれば、約1900万円不足することに
 なります。

 それでは、150兆円に上る国民の年金資産の運用利回りが約束した予定利率を
 下回ったらどうなるのでしょうか。これが民間の生命保険が提供する年金で
 あれば、保険会社は自社の財産を取り崩してでも約束した利回りを払う
 義務があります。財産で払えなくなったら破綻します。国の場合は、
 年金財政の赤字になり、国民が負担することになるのです。国民は、
 保険料の大幅な引き上げか、年金の受け取りの大幅減額か、増税や赤字国債
 の発行での財政穴埋めのどれかを選ばされることになります。

 また、これまでに予定利率自体を5.5%から3.2%まで下げたように、予定
 利率を低下させることは年金の減額など国民への大きな痛みを伴います。
 いずれにせよ、国民が積み立てた年金資産の運用で相当の利回りを上げて
 いくことは、日本の年金制度の根幹にかかわることなのです。利回りを
 上げるのが死活問題なのです。この点が、石油などの資源からの収益という
 いわば天の恵みを運用するものであり、特に国民への債務がない資源国の
 政府ファンド(SWF)などとの違いです。

 ところが、今の年金は資産の3分の2に当たる100兆円を1%台の国債で運用し、
 その部分での逸失利益が財政赤字として積み上がり、隠れた国民負担に
 なっているのです。これが年金のブラックホールです。

 年金の世界では国際的に確立され、日本でも企業年金では常識となっている
 ルールがあります。「年金の運用を受託した者は、年金加入者の利益を
 最優先して行動しなくてはいけない」という「受託者責任」の原則です。

 従って、民間の年金では、国債が超低金利になるに従って、国債への運用を
 大きく減らしてきました。それでないと、企業や従業員の負担が大きくなる
 からです。ところが、国が運営する国民の年金では、そうした資産配分の
 見直しがされてこなかったのです。

 日本国民の年金の運用では、150兆円という世界最大規模の年金資産を
 国民の利益の最大化ではなく、役所同士の慣行が重視されてきたのです。
 どうしてなのでしょうか。

 歴史をさかのぼる必要があります。かつて、年金は、郵貯・簡保と並んで、
 財政投融資の3つの財源の1つを構成していました。この3つの国民の貯蓄の
 大半は、旧大蔵省(現財務省)に預けられ(預託され)ました。預託された
 資金は、旧大蔵省によって、道路公団や国鉄、住宅公団などの特殊法人や
 自治体などに貸し出されていました。

 これが財政投融資の仕組みであり、ピークには315兆円もの資金が、財政
 当局を通じて特殊法人などへの貸し付けに運用されていました。高度成長
 時代から1980年代にかけてはこの仕組みはうまく機能していました。
 旧大蔵省が年金に支払う金利は、今と比べればはるかに高い水準の国債の
 金利にさらに0.2%程度上乗せした金利だったからです。

 そして、年金は、郵貯・簡保と並び、国債の最大の買い手でもありました。

 ところが、1990年代以降、バブルの崩壊と超低金利時代が始まりました。
 国債の金利もそれに連動した財投からの預託金利も大きく低下し、
 年金が受け取る収益は急減しました。

 特殊法人に貸し出して上乗せ収益を手にするという財政投融資も、国鉄や
 道路公団の経営の行き詰まりから限界に来ました。年金や郵貯などに
 集まる資金が自動的に貸し付けられることからの非効率な経営やムダ
 づかいが明るみになったのです。

 こうしたことから、財政投融資は2001(平成13)年度から改革され、
 年金からの預託金の運用は廃止されることになりました。

 国による年金資金の運用も大幅な改革がなされました。1996(平成8)年
 には、日米金融協議に続く橋本内閣での金融ビッグバンの一環として、
 年金運用の大幅な改革が行われました。私も、当時、外資系投資顧問会社
 の代表として、厚生省や経営、労働側とともに、年金改革に取り組みました。

 当時の大蔵省は、むしろ積極的に金融改革に取り組み、国内の生命保険
 会社や信託銀行による国内の資産に限定されていた年金の資産運用を、
 海外での運用を中心に世界的な運用会社を採用できるように変更されました。

《100兆円が自動的に国債を買う仕組みが温存されているという愚》
 確かにこうした変更によって、翌年の1997(平成9)年から始まった日本の
 不良債権問題と金融機関の経営危機、日本の株式の下落とゼロ金利の長期化
 などの影響から、相当の程度日本の年金資産は被害が少なくなったことは
 確かです。

 しかし、年金改革から12年たち、年金が財政投融資に資金を預託しなく
 なった今でも、3分の2の100兆円がほぼ自動的に国債を買う仕組みが温存
 され、年間2兆円の逸失利益のブラックホールが拡大しているのです。

 この問題にメスを入れる時が来たのではないでしょうか。年金改革第2弾
 です。年金加入者である国民の利益を最優先する、という当たり前の
 「受託者責任」を確立しなければ、消費税を決死の覚悟で引き上げても、
 年金のブラックホールに消えてしまうでしょう。

 次には、年金改革第2弾を提案したいと思います。


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┃新刊『大逆転の時代』文庫本が発売になりました
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 ○『大逆転の時代 日本復活の最終処方箋』
  講談社文庫 定価720円(税込み)
  http://www.yamazaki-online.jp/book/080620.html
 
 構造改革や民営化で日本は復活したのか?答えはノーです。
 「大逆転の時代」とは、日本が潜在能力を発揮する時代。
 それができれば、日本が再び世界経済のリーダーとなり得るのです。

 2004年に出版した同タイトルの文庫版です。
 文庫化するにあたり、現代に合わせて加筆・修正しました。


 7月4日には、さらに新刊が発売予定です。
 
 ○『次のグローバル・バブルが始まった!』
  朝日新聞出版 定価1,365円(税込み)
  http://www.yamazaki-online.jp/book/080704.html

 日本の投資家が「これからしばらくは海外への株式投資は控えるべきだ」と
 考えたとしたら、それは大きな間違いです。
 なぜなら「先進国共通の経済低迷」というまさにその理由によって、
 新興工業国にはかつてないバブルが生まれるからです。
 そしてそれは先進国経済にも波及効果をもたらし、世界規模の「グローバル・
 バブル」というべきものに膨れあがってゆくでしょう。


 ご意見・ご感想をお寄せいただければと思います。

● 次号は来週お届けいたします。どうぞお楽しみに!
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