関係者様

ようやくしのぎやすい季節になりました。山崎通信はすっかりご無沙汰して
しまいましたが、皆さんお元気でいらっしゃいましたでしょうか。

では、山崎通信をお届けいたします。
皆様のご意見やご感想も是非お寄せいただければと思います。
お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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____山__崎__通__信_______________2008.9.16_
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┃なぜ、安倍、福田両政権は倒れたのか?
┃             〜日本で政権の運命を決めるもの(前編)
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 福田康夫政権があっけない終わり方をして、また日本の総理が代わります。
 高い支持率でスタートしたのに支持率が急落し、1年足らずで投げ出した
 福田政権の姿は、安倍晋三政権とあまりにも似ています。

 両政権のたどった運命を見れば、日本で政権の運命を決めるものが何で
 あるかがはっきりと見えてきます。それを理解し、正しく対応できなけれ
 ば、自民党であれ民主党であれ、次の政権も短命に終わるでしょう。

 外交や国際関係は重要です。国のかたちの議論も大切です。でも、そうした
 ことが政権の運命を決めるわけではないことも明らかです。「戦後レジーム」
 への姿勢、憲法改正か護憲か、などについて、全くと言っていいほど対極に
 あった安倍・福田両政権は、ほぼ同じ軌跡を描いて終わりました。

《日本経済の世界での地位は一貫して低下》
 両政権が倒れたのは、日本経済を再建できなかったからです。好況だと
 政府が主張しようと、不況になったと宣言しようと、日本経済が世界に
 占める地位は、1990年代以降一貫して低下し、平均的な国民の暮らしは
 悪化を続けてきたのです。

 日本経済の不調は、財政赤字の増加、年金や医療や教育の水準低下と国民
 負担の増大、自治体の破綻、地方経済の疲弊、若者の就職難、多くの企業や
 業界の落ち込みなどの諸相で表れ、政府に対する国民の不信を募らせました。

 企業のリストラが本格化した10年前から自殺者は年間3万人を超え、一向に
 減りません。一部の官僚や政治家の腐敗を摘発したところで、日本経済が
 浮上するわけでもありません。政府の無駄を省けば経済が立ち直るような
 生易しい問題ではないのです。

 いくら地方分権や道州制などの美しい理念を並べたところで、東京都と
 せいぜい愛知県以外は財政的に自立した都道府県が見当たらない中では、
 言葉の遊びにしか過ぎません。

 東京都にしても財政運営が立派なわけではありません。新銀行東京の巨額損失
 など1兆円もの事業損失を抱えながらも、東京都財政が豊かなのは、時価総額
 で上位50社のうち39社の本社が東京都に集中する、すさまじいまでの経済と
 税収の東京一極集中に乗っかっているに過ぎないのです。

 そんな中、田舎で仕事が見つけられずに都会に出てきた多くの若者を待って
 いるのは、正社員ではなく不安定なフリーターの仕事です。ストレスに
 耐えられない若者の中には、自殺の変形としか思えないような殺人を犯す
 ものまで出てきました。そうでなくても、フリーターの男性と結婚しようと
 いう女性は稀でしょう。かくして大都会は、若者を吸い込み、少子化を進める
 ブラックホールと化しました。

 経済の低迷が、日本人から希望を奪っています。どうしてそうなったので
 しょうか。

《21世紀になっても濁流の中をもがいていた日本》
 80年代末までの日本は、ジャパンアズナンバーワン、輝ける経済超大国で
 あり、1人当たり国民所得で世界一でした。世界経済マラソンの先頭を切る
 ランナーでした。

 ところが、先頭ランナー日本は、90年代初めに、不動産バブルの崩壊という
 強い風が吹いた時に、他国のランナーと一緒に、橋から川に落ちてしまい
 ました。欧米諸国などのランナーは、2〜3年の間に財政負担によって不良債権
 を処理して川から上がり、また走り出しましたが、日本だけは21世紀になって
 も濁流の中をもがいていました。

 そのランナーをともかくも橋の上にまで引っ張り上げたのが小泉純一郎政権
 でした。不動産バブルの破裂によってできた不良債権問題を、21世紀になって、
 40兆円以上の財政資金を投入して処理し、多くの銀行や企業を救済したのです。

 巨大な財政負担によって、日本経済は、金融と不動産の複合不況からようやく
 脱却したのです。しかし、それは欧米ランナーの後追いを10年遅れでやったに
 過ぎないのでした。

 それだけではありません。日本が濁流の中でもがいている間に、世界経済
 マラソンには、新しい強力なランナーが次々に参加を始めました。中国、
 インド、ロシア、ブラジルといった国々でした。このことによって、世界経済
 マラソンのコース自体そのものが大きく変更されたのです。

《世界経済マラソンのコース変更に気づかなかった小泉政権》
 いまや、世界の工場は、欧米や日本などの先進国から中国などの新興国に
 移りました。それに伴い、先進国では工場での仕事も賃金も低下しました。
 そういった環境変化の中で、国民を豊かにする、という新しい世界経済
 マラソンが始まったのです。欧米諸国の多くは、そうした新しいコースに適応
 して競争を始めました。

 ところが、不幸なことに、小泉日本はマラソンの先頭集団からあまりにも後ろ
 に取り残されてしまったために、コースが変更されたことにすら気がつき
 ませんでした。だから、80年代にレーガンやサッチャーが掲げた、小さな政府、
 官から民、民営化、規制緩和だけで経済が活性化すると思い込みました。

 そういった政策はあくまでも、80年代の先進国同士の間に競争が限られ、工場
 労働の賃金が新興国レベルに収斂するという、要素価格均等化の力が働かない
 世界では有効でした。21世紀の今は、先進国では、政府が放置すれば、国民の
 多数の所得と生活水準が低下する力が働くのです。それに対応するのが、
 新しい政府の役割であり、その対応に成功した欧州諸国の多くが一人当たりの
 国民所得で日本を抜いていきました。

《求められていたのは世界経済の環境変化への適応》
 しかし、小泉改革は宣伝が上手でした。その一方で、レーガンやサッチャーが
 推進した減税や、地方による自主的な政策決定は認めませんでした。それ
 どころか、三位一体改革と称して、地方自治体の仕事を増やし、その一方で
 財源は国が渡しませんでした。このため自治体の財政はますます悪化しました。

 それでも、小泉政権は最大の目標である郵政民営化を行いました。小泉首相に
 よれば、郵政民営化は日本経済を根本から変えるはずでした。道路公団民営化も
 行いました。規制緩和も進みました。官から民、小さな政府という言葉が叫ばれ
 ました。でも、言葉とは裏腹に、日本経済の没落は止まりませんでした。改革が
 足りないのでしょうか。

 そもそも、小泉政権は、国民の圧倒的支持を背景に5年も続いたのです。5年も
 会社の社長をやった人が、任期が短いから結果が出せない、と言って株主は
 納得するでしょうか。小泉改革が日本経済の再生に失敗したのは、世界経済の
 変化に適応した、本当の改革ではなかったからです。

 生物の世界でも国家でも、繁栄か衰退かを決めるのは、体の大きさではあり
 ません。環境変化への適応能力です。日本は、90年代から始まり、21世紀に
 なって本格化した世界経済マラソンのコースの変更に適応していないのです。

《単なる小さな政府では国民力が低下するだけ》
 新興国に工場の仕事を奪われた先進国が取るべき戦略は、小泉改革以降の
 日本のように、無理に人件費を下げて新興国と張り合うことではありません。
 そんなことをすれば、大切な国内の消費レベルが落ち、所得格差が世代間で
 受け継がれてしまい、結果として国民力の低下を招きます。

 むしろ、新興国が喜んで高いお金を出すものやサービスや技術に経済活動を
 シフトすることが重要なのです。欧州がブランド品やワイン、そしてお城に
 いたるまで、世界中の新興国の憧れの的となっているのはそうしたマーケ
 ティングの成果です。

 その上で、国民全体がより高い付加価値の仕事で高い収入が得られるように、
 教育や技術のレベルを上げることが大事です。そのためには、公教育を充実
 させるとともに、再就職や生涯教育を充実させなくてはいけません。90年代
 以降の北欧や英国は、経済競争と政府のセーフティーネットの充実を組み
 合わせて国民力を高めることで高成長を実現させました。英国ですら、単なる
 小さな政府ではないのです。

《地方に経済の重心を移すことが必要》
 工場が新興国に移れば、なにも工場地帯である大都市に人口や経済を集中
 させる必要はなくなります。むしろ、地価が安く、スペースにゆとりがある
 地方に経済を分散させるのが合理的です。もちろん、そのためには、通信、
 金融、交通、教育、医療などのインフラが整い、公的なサービスが充実して
 いることが前提です。世界に開かれた航空網があることも前提条件です。
 多くの先進国ではすでに実現していることです。

 経済を地方に分散させることは、人件費を高いままに、地価などの不動産
 コストを大きく低下させることを意味しました。しかし、それ以上に大きい
 のは、国民の生活の質の変化です。無料の高速道路や通勤鉄道が発達した
 ドイツや英国、そして米国では、シリコンバレーやフロリダ、そしてドイツの
 村に見られるような、田園あるいはリゾート経済が発達しました。

 通勤地獄とは無縁で、時間にゆとりがあり、自然に近いことで、ブランド型
 農業、グルメ産業、観光、別荘・リゾート投資、国際会議などの巨大需要が
 生まれました。それだけではありません。ベンチャー企業も大企業も、田園や
 リゾートに立地し、ゆとりと遊びのある環境の中から、人間の能力が開花し、
 新しい技術やアイデア、ビジネスモデルが生まれているのです。そして、多く
 の地域で、知の中核体として大学や研究所が充実し、そこにベンチャー企業や
 トップ企業が集まり、さらに法律・会計・金融などの専門家が集まるという
 共同体も生まれています。

 地方に経済の重心が移るからこそ、地方自治体の財政が充実し、独自の政策を
 打ち出す力が出てくるのは当然のことです。かつては、国から予算を取って
 くることが力の源泉だった米国の州知事たちが、今では独自の力を発揮する
 のも、こうした経済の地方分散が根底にあります。

《米国の新興大企業はみな地方から生まれる》
 こうして、もともと地方分散が進んでいたドイツだけでなく、あれほど
 ニューヨークへの経済集中が進んでいた米国でさえ、今では、ダウ30銘柄の
 中でニューヨーク(マンハッタン)に本社を置くのはわずか6社。グーグル、
 マイクロソフト、ヤフー、ウォルマート・ストアーズ、といった新興大企業は
 ことごとく、地方から生まれています。

 ところが、日本は東京一極集中から抜け出す気配は一向にありません。
 とりわけ地価の高い東京では、新しい大企業は育ちません。日本の時価総額
 トップ50社のうち39社の本社が東京にあります。一方、トップ50社のうち
 最近30年で、ゼロから生まれた企業はソフトバンクのみ、すさまじい企業の
 “少子高齢化”です。

 21世紀型の世界企業が生まれない日本経済の未来が明るくないのは当然で
 しょう。しかし、日本には恐ろしいまでの潜在力があります。

 明日お送りする山崎通信では、日本が持つ大いなる可能性について語りたい
 と思います。

 
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┃サイト「Voice of India」にコラムが掲載されました。
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 インドと日本の2国間関係がより密接になってきた昨今、私たちはインドと
 日本の適切な情報の必要性に気づきました。

 そのニーズに応えるために、私がアドバイザーを務めるインドセンターの
 リーダーシップにより、インドのビジネス・社会・政治・経済・文化・
 スポーツ・観光・教育などの最新ニュースをはじめ、インドの基本情報、
 コラム、社説などを提供するバイリンガル・ウェブ・マガジン、ヴォイス・
 オブ・インディア(Voice Of India、VOI)というサイトが作られました。

 このサイトに私のコラムが掲載されましたので、以下にご紹介します。
 
 ○『インドと日本のパートナーシップの未来』
 http://www.voiceofindia.co.jp/content/view/1649/62/
 是非チェックしてみてください。

 英語版もございますので、ご友人などにも紹介していただければ幸いです。
 "India, Japan-Perfect partners for future world"
 http://www.voiceofindia.in/index.php?option=com_content&task=view&id=2271&Itemid=62


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