新年明けましておめでとうございます。皆さんはどのように新年を迎えられた
でしょうか。私は年末まで何かとバタバタしておりましたが、年明けは予定し
ていた出張がキャンセルになったこともあり、のんびり過ごすことができまし
た。今年もどうぞよろしくお願いします。

では、『山崎通信』第16号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信____________2005.01.11_第16号
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┃大乱が始まるのか?
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 太古の昔、人は地球の隅っこで慎ましく生きていました。天変地異には、人
 は祈るしかありませんでした。
 2005年の現在、人の排出するものが天変地異さえ引き起こすほどに、人間は
 地球上でのさばっています。そうなると、人間界に何がおきるのかを予測す
 ることが重要になってきます。しかも世界的スケールで。なぜなら世界は思
 いのほかつながってしまったから・・・。

 自然の一部でなくなったため、人間界は変わることを宿命付けられました。
 人間界は経済成長という変化なしには維持できません。経済成長とは、人口
 が増え、生産物が増え、使う資源が増えることですから、その分、他の生き
 物は減り、資源は使われ、人間が排出するものは増えます。人間界が増えれ
 ば自然界が減ることになります。1950年、地球上の人間の数は25億人でした。
 現在63億人。2050年には95億人になると予想されています。100年で70億人
 増える。地球がこれまで経験していないことが起きています。そろそろ人口
 が減りだす日本も、地球全体での人間界の爆発的成長からは逃げられません。

 これだけの人間界の膨張を生んだ主役は、資本主義といってよいでしょう。
 マックス・ウェーバーによれば、資本主義は16世紀ころのヨーロッパでプロテ
 スタントのなかに生まれたといいます。今では、世界の資本主義の総本家は
 プロテスタント(ピューリタン)が作ったアメリカになりました。
 資本主義の本質はお金に対する高いリターンですから、人間界の膨張を前提
 とします。売上が増えなければ、利息や、まして株主への高いリターンは実現
 できません。売上を増やすには、買う人が増え、作るものが増える必要があ
 ります。資本主義国の人口が増え、技術が向上することも必要ですが、大き
 な人間集団を取り込めたときに、資本主義は大きく成長します。

 150年前にペリーが来てから、日本は世界の資本主義に組み込まれました。
 それから日本は、60年前にドイツと一緒にアメリカ、イギリスとの覇権争い
 に負け、戦後はまたドイツと一緒に世界の資本主義の主要メンバーに復帰し
 ました。日本とドイツの復帰によって世界の資本主義は膨張し、歪みから破
 裂が起きたのが、1970年代のオイルショック時代です。オイルショックの敗
 者は結局アメリカだったので、アメリカ経済は没落を始めました。そして、
 日本とドイツの挑戦をかわし、アメリカの資本主義が再び成長することを可
 能にしたのが、1985年のプラザ合意以降のグローバリゼーションです。企業
 は国家を離れ、資本だけが国家とつながるという方法によって、アメリカは
 復活しました。そして、このやり方が世界資本主義の新しい文法になったの
 です。経済学はこの現実を十分取り込めていないから、しばしば利かない薬
 を処方しています。

 21世紀になって、世界資本主義の新しい参加者として台頭しているのが、中
 国、インド、ロシア、ブラジル。かつての日本、ドイツの挑戦以上の衝撃を、
 資本主義に、そして地球に与えるでしょう。とりわけ中国が台風の目です。
 世界の資本主義というマシンは、中国で高速回転しています。グローバリゼ
 ーションの最大の受益者は中国です。日本だけでなく欧米の企業も、いまや
 利益成長の最大のエンジンは中国になりました。

 しかし、中国は儲かる、という勝利の方程式は維持可能なのでしょうか。
 このままでは一度崩壊せざるを得ない、というのがわたしの観察です。

 2005年の今は、1970年代のオイルショック前夜とよく似ています。アメリ
 カの終わらない戦争(ベトナムとイラク)、それに伴うアメリカの財政悪化、
 中東の紛争、石油や一次産品への需要の急増、新興国(日本・ドイツと中国)
 へのアメリカの貿易赤字の拡大、ドルに固定された新興国通貨への切り上げ
 圧力(円・マルクと元)などが挙げられます。オイルショック発生以前に円
 ・マルクは変動相場制に追い込まれ、そこにオイルショックが発生しました。
 世界はインフレと大不況が10年続きました。

 オイルショック当時にはないものが今はあります。中国の不良債権問題です。
 その深刻さは資本主義国家であれば経済破綻に直結するものといってもよい
 でしょう。しかし、中国経済が倒れないどころか9%もの成長率を維持してい
 るのは、統制的な経済・金融システムと為替管理、そして何よりも「中国は
 儲かる」という資本主義世界の常識にもとづく外国からの資本奔流のおかげ
 でしょう。

 これから中国経済のバブルが崩壊するにしても、どれだけソフトに崩し、ど
 れだけ早く持続可能な形にできるのか、そこに21世紀前半の世界経済がかか
 っています。かつてオイルショックの克服に10年必要でした。今は、当時と
 は比較にならないくらい世界はつながり、中国ショックは世界ショックにな
 るでしょう。とりわけそのときの日本のショックは大きい。少子高齢化が進
 む日本の生き残り策として、中国進出は「生命線」になりつつあるからです。
 G8の通貨管理体制に元を速やかに組み込むとともに、金融・コーポレートガ
 バナンス、証券取引所の抜本改革、不良債権処理への国際的協調体制、財政
 再建、貧富の格差縮小、環境問題など、日本が中国にアドバイスすべきこと
 は沢山あります。もちろん個々の日本企業が、与信、投資、不動産など、多
 方面で中国ビジネスのリスク管理を徹底すべきことはいうまでもありません。

 しかし、中国ショックは日本にとっては長期的にはチャンスとなり得ます。
 アメリカ型資本主義に中国やインドを組み込めば、資源と地球への負担が限
 界を超えることは明らかです。人口減少に向かう日本が、使う資源を減らす
 ことによって地球と共存可能な、新しい資本主義のあり方を示すことが重要
 です。ミルトン・フリードマン博士が指摘したように、1970年代のオイル
 ショックを真っ先に切り抜けたのは日本でした。21世紀の日本にも、本当に
 困ったときの知恵が出てくると信じたいです。


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┃中央公論2005年2月号(1月10日発売)
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 そんな観察をまとめました。
 「やがて来る中国のバブル崩壊と日本の危機」という題で中央公論2005年
 2月号(1月10日発売)に掲載されます。

 今年も皆さんと議論できれば幸いです。


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● 次号は2005年2月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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