ようやく春らしい日が多くなってきました。皆さんお元気でいらっしゃいます
でしょうか。
『山崎通信』第18号をお届けいたします。
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____山__崎__通__信____________2005.03.10_第18号
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┃こんな郵政民営化すら通りそうな国会とはなに?
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人間社会において、大掛かりに宣伝された政策が、そのスローガンとまったく
逆の結果に終わることはよくあります。田中角栄の日本列島改造論は、
地域の平等を唱えました。しかし、おそらく角栄さんの思いとは逆に、地方
と東京の格差を決定的に広げることとなりました。毛沢東以来の中国は、
平等社会の実現を掲げてきました。しかし、19世紀にマルクスが資本主義の
危機とその終末を予言したときのイギリスよりも貧富の格差が大きい不平等
な社会になりました。
小泉純一郎氏は、郵政民営化を掲げて2001年4月に総理大臣になりました。
「郵政民営化は、・・・税金を使って各特殊法人に投融資を行う国営金融
機関・財政投融資制度(財投)の抜本的改革にもつながる。」「この改革は、
郵政省のみならず、大蔵省をはじめ全官庁が嫌がる改革であろう。」
(小泉純一郎・松沢しげふみ編『郵政民営化論』の小泉氏による序文)
ついに日本にも財政赤字の構造要因である国営金融機関(財投)に本格的に
メスを入れる総理が誕生したか、と大いに期待したものでした。
ところが、いま小泉政権が提案している「郵政民営化」は、当初の目的と
正反対の結果になる気配が濃厚です。担当大臣である竹中氏の主張に沿って
考えてみます。
まず「民営化」の第一のメリットとされるのは、350兆円の郵政資金が
「官から民」に流れるということです。しかし、民営化されても「実質的な」
資金の流れは変わりません。郵政資金から財務省理財局への貸付をなくす
ことをもって改革をしたと主張されていますが、これは、単に、貸付が
財投債という名の国債の引受に代わっただけなのです。この財投債は、
年間30〜40兆円も発行され、小泉首相が30兆円に抑えると大騒ぎした
「新規財源国債」より多いのです。民間で言えば、銀行借入を銀行への
私募債発行に代えたのと同じで、借入という実質は変わりません。財務省は、
この財投債を郵政だけでなく年金にも強制的に買わせる仕組みを
作り上げており、その資金を国営金融機関(財務省理財局)が特殊法人
などに貸し付ける仕組みは温存されたままです。郵政民営化の最大目的だった
はずの財投改革、つまり財務省理財局改革はまったく手付かずなのです。
その結果、わずか108人の定員の理財局スタッフが、4大メガバンクの貸出金
の1.5倍以上になる350兆円もの国民資金を、非効率な公的セクターに、
実質的な審査・管理・回収能力なしに貸し出しています。つまり、官への
巨額の資金の流れは手付かずに終わるのです。
第二のメリットと主張しているのが、郵便局が便利になるというものです。
現在の公社形態は、業務への制限(例えば、融資はできず、貯金も1千万円
まで)があるがゆえに三業務の兼営が認められています。しかし、民営化
されると、業務分割、貸付業務への参入、個別の業法規制などにより、地方
での採算の悪い郵便局は閉鎖されていく可能性が高くなり、地方を中心に
サービス低下になるでしょう。地方の農協すらないような村(もちろん銀行も
コンビニもない)から郵便局がなくなり、貯金、保険、郵便といったサービス
が受けられなくなるのです。こうした民間空白地帯にある郵便局が6,000近く
あると聞きます。
第三のメリットに挙げられるのが、公務員の削減です。しかし、「郵便士」
などの国家資格を作るそうで、これまた実質は変化しないでしょう。
第四のメリットには、潜在的な国民負担の減少とあります。まったく逆です。
まず、国営金融機関(財務省理財局)による特殊法人などへの貸出と焦げ
付き、という官の不良債権問題が不問に付される結果、国民負担はこれから
増大するでしょう。民営化といいながら40兆円の借金(NTTの3倍)を国民に
押し付ける結果になる道路四公団が良い例です。しかも2007年から、郵貯を
国営銀行に衣替えします。竹中プランでは、貸出金35兆円にも上るメガバンク
になります。現在の東京三菱銀行の貸出金40兆円に匹敵する銀行です。
公社形態のままであれば、不良債権は財務省理財局にあり、郵貯自身には
ありません。しかし、国営銀行になれば、貸出の失敗→不良債権の増加→経営
危機→公的資金投入となりえます。民間銀行を救うために、すでに38兆円もの
国民資金を投入したのを忘れたのでしょうか。不良債権を生まないような
優秀な銀行を短期間で作るには、優秀な人材を高い給料で雇うことが不可欠
です。財務省に預けるのが基本なので、運用規模と比較すると極端に少ない
担当者しか配置していない郵貯と簡保の運用部門コストは、大幅に増加する
でしょう。そのあおりで効率が低い地方の郵便局は一層閉鎖されるでしょう。
国営銀行ができたら、民間の中小金融機関はどうなるのでしょうか。堅実な
経営をしていても郵貯銀行に預金が移り、経営が立ち行かなくなって破綻、
ということも頻発するでしょう。いよいよこの4月からペイオフ解禁で、民間
金融機関の経営はただでさえ苦しいのが現実です。そこに郵貯銀行という
ガリバーが参入すれば、民間金融の一層の寡占化と地方の中小金融の危機を
生むでしょう。そして、破綻金融機関の処理には国民の税金が使われるのです。
小泉・竹中「郵政民営化」は、財政破綻の放置、地方の一層の疲弊、官業の
増大と国民負担の増大、という皮肉な結果を生むでしょう。それは、
「国土の均衡ある発展」という自民党の党是にも、「財政再建」という
財務省の悲願にも、「小さな政府」という民主党の主張にも、逆行するもの
になります。専門家ならずとも、小泉さんの当初の理想と現在の「民営化案」
の中身が大きく異なり、民営化が国全体へ与えるダメージが甚大である
ことは、丹念に議論すれば明白ではないでしょうか。
であれば、どうしてこんな「郵政民営化」が進められるのでしょうか。
形の上だけでも「郵政民営化」の実績を残したい小泉政権、財政再建よりも
官の不良債権を作った責任の追及を免れたい財務省、巨大独占と組織の
肥大化を目論む郵政官僚。こうした関係者の利害が一致したということ
でしょうか。今こそ野党の出番です。まさか「政権準備党」と衣替え
したから、いまの政権の問題は国会内外であまり追及できない、という
情けないことはないと期待しています。
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● 次号は2005年4月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!
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