とうとう梅雨入りとなりました。皆様はお元気でいらっしゃいますでしょうか。

『山崎通信』第21号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信____________2005.06.16_第21号
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┃「財投国債」を廃止すれば郵政民営化はいらなくなる
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 6月7日に衆議院の郵政民営化に関する特別委員会で参考人として意見を
 述べました。審議を通じて改めて見えてきたことをご報告します。

 これまで分からなかったことが多かったのです。

 小泉首相が提案するとおりに、郵貯と簡保を切り離して株を全て民間に売り
 払ってしまえば、国に残った郵便事業だけでは巨大な赤字が発生し、財政
 赤字がその分膨らむのです。いまはせっかく郵貯と簡保が毎年何千億円と
 いうお金を国に納めているのに、将来は巨額の赤字を国が埋めなくては
 いけない。つまり、財政赤字は膨らむのです。これでは逆行です。赤字を
 避けたければ、6,000にも及ぶ他の金融機関がない離島や山間地の郵便局は
 廃止せざるを得ないでしょう。そのうえ、民間の株主が郵貯と簡保の半分
 以上の株式を握れば、効率の悪い郵便局との取引はやめるでしょう。いずれ
 にしろ、年金も郵便も受け取れない地域が広がるでしょう。そうなれば、
 8,200万人が国土のわずか3%の過密地域にしか住めない国のままになる
 でしょう。そして、医療や介護の費用もはね上がります。確実なのは、
 今せっかく郵政事業が財政に貢献しているのに、民営化すれば財政の巨大な
 お荷物になることです。分からない話でした。それに自民党の支持基盤
 である地方の人口を、野党が強い大都市に追いやる政策を、なぜ小泉自民党
 総裁が推進するのかもよく分かりませんでした。

 そもそも郵政民営化の目的は、「税金を使って特殊法人に投融資を行う国営
 金融機関・財政投融資の抜本的改革につながる」「郵政省(現総務省)
 のみならず、大蔵省(現財務省)をはじめとした全省庁がいやがる改革に
 なる」と小泉純一郎議員は、総理就任直前に著書『郵政民営化論』の巻頭で
 マニフェストしました。ところが、肝心の民営化案には財投や財務省のザの
 字も入っていません。いったい特殊法人の問題はどこに行ったのでしょうか。
 財務省は財政投融資の改革は終わったと言います。本当とは思えません。
 かつては郵貯、簡保、年金から財務省がお金を借りて特殊法人に貸し付けて
 いました。いまは「財投債」という名の国債(以下「財投国債」)を財務省が
 発行し、そうして得たお金を担当の財務省理財局がいまも特殊法人等に貸して
 いるのです。「財投国債」の昨年度の発行実績額はなんと41兆円、この国の
 税収すべてに及ぶ額です。国債発行枠30兆円といって騒いだ「新規財源国債」を
 上回る大きなお金が財務省によって集められ、今も特殊法人等に貸し付けられ
 ているのです。名前が「財投債」というので、特殊法人の金集めのための国債
 であることはあまり知られていません。極力触れられたくない部分のようです。
 しかし、総税収に等しい大きなお金が今でも毎年財務省から特殊法人に流れて
 いるのは紛れもない事実です。だから、郵政を民営化しても、この「財投国債」
 をやめないかぎり特殊法人へのお金の流れはなくなりません。しかも、銀行や
 保険会社から個人にまで財務省は「財投国債」を売っています。官から民
 どころか、「民から官」へのお金の流れは普遍なのです。ということは、
 「財投国債」を廃止して、財務省が特殊法人に貸すのをやめて、それぞれの
 特殊法人が自分の信用力に応じて自ら借金をする形にすれば、まさに小泉さん
 がマニフェストにのべたような財政投融資の抜本改革になり、特殊法人への
 税金の垂れ流しが終わるのです。

 ところが、不思議なことに審議中の民営化案は「財投国債」の廃止にまったく
 触れていないのです。そうなると、小泉郵政民営化は国民のためではなく
 財務省の保身のため、ということがはっきりしてきます。旧大蔵族であった
 小泉さんにしてみれば当然かもしれません。特殊法人の赤字垂れ流しを支えて
 きた財務省の責任を回避し、郵政に責任を押し付けられるからです。

 今回の参考人質疑で貴重だったのは、慶応大学で小泉首相にも教えられた加藤
 寛先生のご意見を一緒に聞けたことです。加藤先生は小泉さんの民営化信仰の
 師と申し上げてよい方です。先生は「公は弱ければ弱いほど良い。民がすべて
 になるような自由競争が理想だ」とまで言い切られました(正確な質疑の
 内容は衆議院のホームページの録画映像や議事録で確認ください)。当然、
 郵便も貯金も簡易保険もすべて民間になるべきだし、それで地方に郵便局が
 なくなって小さくなるのはいいことだ、というお考えをお聞かせ頂きました。
 これはこれで一貫したお考えだと思いはします。加藤先生が先月の日経新聞
 「私の履歴書」に連載していたところによれば、先生はピグーという経済学者
 の信奉者です。ピグーは「経済はすべて民に任せればよい、国はせいぜいガード
 マンをやってくれ」という19世紀に全盛を誇った「夜警国家」とまで言われた
 自由主義経済を主張するイギリスの経済学者でした。今では古典派経済学と
 呼ばれています。20世紀のはじめ、まさに民がすべてであり永遠の繁栄が語られた

 アメリカ経済が、突然の大恐慌で崩壊したときに、ケインズが現れました。
 ケインズがもっとも批判したのがこのピグーであることは有名です。ケインズは、

 電話、自動車などで経済が統合され独占と投機が巨大化する20世紀経済では、
 民間の暴走は経済全体を破壊する。そのために、公による安全網を経済の中に
 作らなければ大恐慌から抜け出せないことを主張しました。ケインズが提唱した
 公と民の組合わせによる混合経済体制は、21世紀にいたる先進国の経済体制の
 基本になりました。そうして初めて、銀行の倒産から預金者を守ったり、
 失業保険を作ったり、企業の情報公開を義務付けることが始まったのです。日本
 の銀行が破綻し、1年間の税収を上回る46兆円もの国民のお金が銀行の支援に
 使われたのもケインズの提唱した公の役割のおかげでした。アメリカは大恐慌で
 民間銀行がすべてつぶれる経験をして、1938年から証券化で資金を民間銀行に
 供給する政府金融機関を作り、今ではこの公の金融機関によって国債に並ぶ
 400兆円ものお金が住宅ローン、奨学金ローン、中小企業ローンなどの民間に
 流れる仕組みができています。公と民のパートナーシップです。

 ところが21世紀の日本において、すでに欧米では19世紀の古い経済の考え方と
 捉えられているピグーの古典派経済学に基づいて、せっかく世界一うまくいって
 いる郵便局をバラバラにして国民に巨額の負担を発生させようとしています。

 おそらく民営化の末路は、郵貯銀行の破綻による再国営化と郵便局の維持のため
 に郵貯と簡保を復活させることでしょう。その間に、いまはアメリカや中国より
 はるかに平等な社会という日本の強みは消えてしまうでしょう。

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┃郵政民営化特別委員会における参考人質疑の際に使用した資料
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 6月7日の郵政民営化に関する特別委員会参考人質疑の際に使用した資料を、
 以下のアドレスに掲載しております。
 http://www.yamazaki-online.jp/kinyuron/pdf/050607_sankou.pdf

 また、小泉首相の郵政民営化に対する対案についても掲載しております。
 http://www.yamazaki-online.jp/kinyuron/pdf/050614_yusei.pdf

 ご興味のある方は、ご覧になってみて下さい。

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● 次号は2005年7月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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