梅雨明けが待ち遠しい今日この頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

『山崎通信』第22号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信____________2005.07.12_第22号
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┃どこに行く郵政民営化
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 衆議院で郵政民営化法案がわずか5票差で可決されました。あとは参議院の
 審議です。どうなるのでしょうか。

 10年も前、当時の小泉純一郎議員が郵政民営化を唱えたときに、「この人
 は総理になるな。」と思いました。小さな政府を主張して自民党総裁選挙を
 戦った初めての政治家だったからです。私が小泉さんに共感したのは、郵政
 民営化によって巨大な第二予算である財政投融資の抜本改革をやり、財政を
 再建する、と約束したからでした。そのためには、郵政資金を吸い上げて
 特殊法人に貸し続ける財務省の抜本改革こそが本丸になるはずでした。
 「財務省改革をやってこそ、財政再建が進む。」という当たり前のことが、
 勇気ある政治家によってやっと始まる、と期待したものです。

 この国の財政が破綻に向かっていることは、誰の目にも明らかです。財政の
 ムダ遣いをなくすには、巨大に膨れ上がった特殊法人へのお金の流れを
 止めることが不可欠です。ここまでは私も賛成です。そこから先が、今回の
 小泉流民営化と違います。特殊法人にお金を貸しているのは財務省です。
 そのための資金を調達するために「財投債」という国債を財務省が発行し、
 郵貯はもちろん、年金や銀行、個人にまで買わせて資金を吸い上げ、財務省
 が特殊法人に貸しているのです。郵政民営化には関係なく、この仕組みは
 続きます。昨年度実績でいえば、総税収に等しい41兆円もの財投債が発行
 され、その資金が特殊法人などに渡りました。驚くべきことです。大騒ぎ
 して民営化する予定の道路公団も、民営化後も国が保証して資金調達して
 くれるから、1,000億円以上も国民のお金を談合で無駄遣いしても平気です。
 アメリカにも巨大な特殊法人があります。しかし、特殊法人は自分で資金を
 市場から調達してきます。経営状態が悪ければ資金は集まりません。市場が
 特殊法人の経営を監視するのです。ところが、日本では財務省がろくに審査
 もしないで特殊法人の資金集めを肩代わりします。そして、特殊法人が巨額
 の資金を返せなければ・・・財務省が国民の資金で損の穴埋めをしてきたの
 です。これではいつまでたっても特殊法人の経営がよくならないはずです。
 この甘えの構造の元凶である財投債、つまり財投国債を廃止して、基本的に
 市場が特殊法人を監視し、どうしても必要で足りないものは財政から見える
 形で出す形にしなければ、いくら片方で財政再建を唱えても、財投国債を
 発行することでどんどん国の借金は増えます。

 小泉流民営化で財政は再建の方向に向かっている、という印象を与えて 
 いますが、肝心の特殊法人の改革と財政再建については、見事にゼロ回答
 といっていいでしょう。

 一方、郵政三事業自体は、国の事業にしては珍しく黒字を継続して、国庫に
 納付金を納め、国民からの満足度は高く、しかも民間と全面的には競合
 しない、いわば優良事業でした。企業会計の導入、情報公開、法人税の納付、
 経営の合理化など、民間経営の導入を目的とした改革なら理にかなってい
 ます。郵便事業でのいっそうの民間参入も必要でしょう。しかし、今回の
 民営化案では、郵政事業を解体し、特に地方のライフラインである郵便局の
 廃止に結局つながります。かえって膨大な国民負担を招くことが明らかに
 見えます。

 特に郵貯事業は、健全経営を維持し、国庫に納付金を納めてきました。
 46兆円もの巨額の国民負担で救済された民間銀行と好対照です。かつての
 国鉄民営化の場合は、官が大幅赤字、民が黒字であり「官から民へ」という
 スローガンには説得力がありました。しかし、郵貯と銀行ではまるで逆です。
 郵貯が銀行になったら、破綻して再び国有化するというジョークに現実性が
 あるのです。民間銀行がいまだに20世紀型のビジネスモデルにしがみつき、
 低成長・人口減少経済に対応できずに破綻してきたのに、成功してきた郵貯
 をわざわざ国のひも付きの民間銀行に変えてしまう合理的理由が分かり
 ません。まさに「もったいない」話です。

 もちろん、郵政改革は必要です。しかし、進むべき方向は今回の民営化案と
 はまったく違います。郵便局が公のインフラに徹することによって、その上
 で民間が自由に競争できることこそ民間の活力を増し、財政再建につながり
 ます。そして、郵便局に集まった巨大な資金が、いままで十分に資金を受け
 られなかった住宅ローン、学生ローン、中小企業・ベンチャー、地域再生、
 NPOなどの民間に「民間金融機関を通じて」流れるように改革することが大切
 です。郵貯を銀行に変え、国家信用を背景にして民間金融機関から仕事を
 奪うのではなく、個人などに貸し付ける民間金融機関への資金の供給者、
 いわばスポンサーに徹することです。そして、結果として郵貯は高い運用
 利回りを確保し、国債依存を減らす。これを実現していくのが「証券化」で
 あり、民と公の金融における共生システムです。戦前のアメリカでは、
 大恐慌でほとんどの民間銀行がつぶれたあと、証券化という公が作った金融
 インフラができ、個人や中小企業の資金調達を支え、いまでは国債市場以上
 に大きくなっています。アメリカに学ぶなら、証券化こそ学んでほしいもの
 です。

 実は、日本で初めてアメリカの証券化商品を投資対象にした投資信託を私が
 担当者として開発したのは1990年でした。日経金融新聞最優秀商品賞まで
 いただきました。そのときに意外だったのが、個人や中小企業の夢を実現
 することこそアメリカンドリームだというアメリカ資本主義のもう一つの顔
 でした。大企業、大銀行を中心とした日本の金融との哲学の違いを痛感した
 ものです。いまこそ日本にも証券化を通じた金融の民主化が必要ではないで
 しょうか。郵政改革はそのチャンスになるはずです。

 日本国民の最大の懸念である年金問題の解決のためにも、郵便局の公的な
 役割が不可欠になるでしょう。転職社会・フリーター社会になれば、終身
 雇用を前提とした今の年金制度では対応できません。そうした時代のために
 個人個人に帰属する401k(確定拠出年金)などの新しい年金制度が必要に
 なる、ということは、専門家の間ではコンセンサスになっています。ところ
 が、日本でも401kが始まりましたが、ほとんど普及していません。インフラ
 のない民間金融機関がビジネスとして始めるには、コストがかかりすぎる
 からです。そこで、郵便局がすべての金融機関の401k商品の窓口になったら
 どうでしょうか。窓口とインターネットの両方でのサービスを開始し、一定
 基準をクリアすれば、どこの証券、銀行、生保、運用会社の商品でも扱う
 ようになれば、全国で新しい形の年金を国民が使うことができるでしょう。

 結局、21世紀の郵便局の役割は、(1)民間への社会インフラを提供する、
 (2)預金、保険、借り入れ、年金などのサービスへの国民の平等なアクセスを
 確保する、(3)まともな金融機関であればどこでも郵便局にアクセスできる、
 というインフラ型モデルに転換すべきでしょう。

 小泉さんの民営化案を一つのきっかけにして、本当に国民のためのビッグ
 バンが起きれば、郵政民営化にもったいないエネルギーを使った意味も
 出てくるでしょう。


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● 次号は2005年8月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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