秋風が肌に心地よいころとなりました。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
『山崎通信』第24号をお届けいたします。
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____山__崎__通__信____________2005.09.29_第24号
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┃The days after
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総選挙での小泉首相の大勝利をいち早く予言していたのは株式市場でした。
小泉首相が解散総選挙を発表した8月8日から日経平均は一本調子で上昇し、
9月26日までで14%も上昇しました。9月18日に行われたドイツの総選挙で
勝者が決まらず、株式市場が下落したのと好対照です。
日本株買いの主役は、年金・オイルマネーなどの長期投資の外国人のよう
です。そもそも、日本企業はリストラと事業戦略の転換で、史上最高の
利益を上げていました。さらに、石油価格の高騰や世界的な少子高齢化や
エコ社会の到来に強いのは米中ではなく日本だ、という認識も広がってきて
いました。それなのに最割安の水準に放置されていた日本株に、小泉自民
党の勝利が火をつけました。このままの上昇が続けば、年金や保険の財政も
好転し、景気が回復すれば税収も増えるでしょう。いいことです。
株式市場の上昇はまた、小泉改革の本質を語っています。不良債権処理や
規制緩和による民間重視の政治への転換です。それはまた、上場企業の7割
が集中する東京中心の経済運営に他なりません。小泉さんは、総選挙では
「官から民」という言葉をシンボルにして新鮮な候補者を擁立し、郵政
民営化反対の地方代表を切り捨てました。一方の民主党は、郵政民営化での
戦いを避け、政府案より根本問題に迫る対案を出さず、守旧派のレッテルを
貼られました。そして、小泉自民党は、首都圏を民主党から奪い返しました。
切り捨てられた地方も自民党にすがりつき、小泉さんは自民党中興の祖と
なりました。
華々しさの陰に隠れて、郵政民営化によって「官から民」が実現するという
小泉改革の核心部分は検証されずに終わりました。2001年の小泉政権発足と
ともに特殊法人のための国債である「財投債」が発行され、いまやその残高
は125兆円になります。小泉政権が増やした国債の約半分は財投債です。
銀行ももちろん買っていますし、そのお金は特殊法人に流れます。郵貯が
銀行になったところで、「民から官」へのお金の流れは変わりません。国債
を発行して特殊法人にお金を流しているのは財務省であり、財務省改革なく
して改革なしなのです。このことは、小生だけでなく野口悠紀雄、櫻井よし
こ、西尾幹二などの諸氏によって指摘されているにもかかわらず、大マスコ
ミの多くは知らぬ顔でした。また民営化後の新会社が、貯金、貸出、保険、
宅配のすべてを認められる特権的巨大国営企業になる危険を深尾光洋氏など
が指摘しましたが、この声もかき消されました。参議院の採決前に、大新聞
が一斉に郵政民営化法案に賛成の社説を掲げ、そのグループ企業であるとこ
ろの全国ネットのテレビが、郵政民営化法案賛成、即ち小泉支持の大合唱を
したのですから当然かもしれません。脚本、演出、キャスティング、主演は
小泉さん、舞台はワイドショーという芝居は大成功でした。かくして小泉
以後も最長4年は続く絶対多数政権ができました。すべての与党法案は通り
ます。憲法改正も増税もできそうです。これが投資の世界なら、気に入ら
ない株なら買わない自由があります。しかし、国民にとって最大の支出先
であり、命すら預ける政治には、そんな自由はありません。怪しげな理屈で
大勝利した政権のやることが、我々にも子供たちの世代にも大きく影響する
のです。
いまのマスコミの姿を見て思い出してしまうのは、バブル時代の証券業界が、
護送船団方式で大手に牛耳られ、ファンダメンタルズからかけ離れても金融
引き締めが始まっても、ひたすら株価上昇を唱えていた姿です。いまも日本
の大マスコミは、新聞と放送の兼営を認められ、本社の土地を国に提供して
もらい、国提供の記者クラブで「外資系」を排除しています。護送船団方式
の大手支配の構図です。外国では当たり前であるネットによる選挙活動も、
IT大国である日本では認められていません。バブル時代の証券界と同様に、
マスコミで重視されるのは関係であり、軽視されるのは調査と事実と情報
公開であり、経営陣は説明責任を果たしていません。欠陥だらけの郵政民営
化法案を、政権と一緒に善男善女に売り込むマスコミの姿は、かつて民営化
NTT株のばら色の夢を、政府と一緒に売りつけた証券界の姿とオーバーラップ
します(1987年に300万円だったNTT株は、現在50万円前後です)。そこには、
国民にとってのリスクとリターンを徹底的に調べ、分かりやすく伝えようと
する姿勢はありません。
かつてのバブルは、株式市場の崩壊とともに終わりました。小泉改革の行方
はどうなるのでしょうか。小泉さんのあとも続くかもしれない絶対多数与党
は、何をするのでしょうか。その一つの答えは、「国債」が出してくれそう
です。郵貯の問題も、二つの国債問題でもあります。一つ目は、財投債と
いう名の特殊法人のための国債を、郵貯が買っている問題です。特殊法人の
借金を国民に肩代わりさせた国債を郵貯が買い続けることによって、民から
官への資金の流れは続きます。もう一つが、株式上昇、景気回復、デフレ
終了、金利上昇という経済の正常化に伴って発生しうる郵貯の経営危機の
可能性です。
郵貯のビジネスモデルは、銀行とは大変異なります。これまでの郵貯は
貸付部門を持たず、資産のほとんどは国に貸し付けるか、国債を買って
きましたから、郵貯自体に不良債権問題はありません。特殊法人がお金を
返さないのは財務省の問題であって、財務省にお金を預ける郵貯の問題では
ないのです。郵貯が抱える最大のリスクは、金利上昇のリスクです。どれ
ぐらいなのでしょうか。郵政公社成立時の定額貯金の残高は167兆円でした。
国債などの国内債券の保有は、今年7月末で130兆円です。債券の金利感応度
(デュレーション)は公表されていませんので、5年程度と推計します。
金利が1%上昇すれば、債券価格は5%下落します。もし国債金利がさらに
2%上昇して普通の低金利レベルである3%になれば、債券価格は10%下落
します。そのとき郵貯が保有する債券の価値は、13兆円下落します。そう
なれば、今年6月末時点での有価証券の含み益およそ2兆円、およびわずか
1兆8000億円の資本金の合計を大きく上回ります。3.3兆円程度の保有株式が
上昇したとしても追いつきません。この段階では巨大な含み損です。これ
だけでも危機なのですが、経営の最大のリスクは、定額貯金の解約と資金の
流出です。定額貯金は預け入れてから6ヵ月後は解約自由ですから、金利が
上がれば、より高い金利で新たに定額貯金に預けかえるか、有利な運用先を
求めて相当部分が解約されるでしょう。仮に半分が解約し、引き出されると
仮定すると、80兆円あまりのお金が出て行きます。貯金者に払い戻す原資は
債券しかありませんから、巨額の売却を行う必要があります。ここで、
含み損が実現損に変わります。損失が資本金を超えた時点で、債務超過に
なります。そのままではとても株式の上場などできないことになります。
このまま放置して郵貯が破綻したらどうなるのでしょうか。まさか、かつて
の長銀のように、国民が損失を負担した挙げ句に外国人投資家にはした金で
売り渡すことはないと信じたいものです。いまから根本的な対策をとるべき
です。金利が上がってからでは遅いでしょう。そのためには、いまの民営化
案以上の思い切った経営の高度化と規模の縮小が必要です。
郵貯が金利上昇で危機に陥るときには、財政全体がもっと大きな危機に直面
しているでしょう。国と地方で1,000兆円にも膨らんだ借金の金利が上がる
からです。2%上昇するだけで、金利支払いが20兆円も増えます。いまの税収
の半分が飛びます。多少節約しても追いつくものではありません。まして、
80年代後半のように国債の金利が5%を超えるようになれば、財政の破綻は
確実になります。あらゆる政策が影響を受けます。長引く不良債権問題の
処理とデフレのために、10年も続いたゼロ金利のおかげで国債という借金を
抱えることの痛みを日本経済は感じなくなっています。これから金利が普通
の水準に戻ることで、日本はモルヒネが切れたときのような激痛に襲われる
でしょう。
小泉さんは、日本は変わらなくてはいけないという意識改革を国民に直接
訴え、民間主体の成長という一つの答えを出しました。大きな功績です。
しかし一方で、国債の発行を史上最も増やし、財政破綻をほぼ決定付け
ました。道路公団に見られるように、特殊法人の本当の整理も税金の見直し
も行いませんでした。それどころか、官の不良債権を処理せずに、国債で
引き受けてしまいました。そのツケをこれから誰がどのように処理するのか、
官や自治体はどうすれば自律できるのか、この問題に立ち向かわずに未来は
開けないでしょう。
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● 次号は2005年10月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!
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