関係者 様

ご挨拶が大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年も様々な分野において独自の視点で語っていきたいと思っています。
皆さんの忌憚なきご意見・ご感想をお待ちしております。今年もどうぞよろ
しくお願い申し上げます。
では、2006年初の『山崎通信』をお届けいたします。

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____山__崎__通__信____________2006.1.24_第28号
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┃日本のロードマップは?
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 いま、日本は歴史問題、靖国問題で国論が分裂しています。21世紀の日本が
 その繁栄を維持していくために、どのようなロードマップを描くべきなので
 しょうか。

 共産中国は、70年代末からの改革開放政策で着実に資本主義国に変容しま
 した。しかし、その成功ゆえに中国共産党の正当性の根拠であった平等社会
 の実現は遠くなり、腐敗と不平等への不満が高まりました。それが民主化
 要求として噴出し共産党支配を大きく揺さぶったのが、1989年の天安門事件
 でした。事件後に欧米から孤立した中国は、90年代からパクス・アメリ
 カーナの発展形であるグローバリゼーションに大胆に参加することを決断
 しました。そして、いまではアメリカへの最大の貿易黒字国であり、世界
 第2位の石油消費国になりました。

 しかし、国が豊かになる一方で人民の経済格差は拡がり、平等社会の実現
 からはほど遠くなってしまいました。存立基盤が揺らいだ中国共産党は、
 人民の不満を党からそらし、党の存在意義を高めるために90年代半ばより
 愛国教育と抗日戦争教育に力を入れ始めました。大きな政策転換です。

 かつて、周恩来は「日本軍国主義に罪はあるが日本人民に罪はない」として
 日本の戦争責任を友好の幕の後ろに隠し、中国国内に渦巻く不満を抑えこみ
 ました。アメリカに加えてソ連とも敵対関係に入った当時の中国にとって、
 日本との対立の火種になるようなものは消すことが必要でした。ところが、
 1998年にはじめて来日した江沢民国家主席は、日本側から見れば唐突に、
 日本の戦争責任に何度も言及しました。日本の世論は反発しました。その後、
 資源をめぐって中国が日本の領土を軍事的に威嚇することが続きました。
 さらに中国の友好国である北朝鮮の拉致問題が表面化すると、日本人の国家
 意識がにわかに目覚めました。隣国からの不当な侵害に対して毅然たる姿勢
 で対峙することは当然です。

 高まる国家意識を体現したのが2001年からの小泉首相の靖国神社参拝では
 ないでしょうか。国家のために命を捧げた人を追悼するのは当然、という
 小泉首相に多くの若者が共感し、靖国参拝はブームになったようです。中韓
 両国は小泉首相の靖国参拝に反発して結束し、去年中国では反日デモが激発
 しました。他のアジア諸国にも反発や当惑が広がりました。中国はまた、
 日本の国連の安全保障理事会の常任理事国入りを阻止しました。中国は、
 日本の外交的孤立と自らの地位向上という戦略目的を達しつつあるようです。
 日本は、過去を理由として地域の盟主の地位を大きく後退させつつあります。
 かつての同盟国ドイツとは対照的です。

 経済面ではかつて日本が圧倒的シェアを占めたASEAN諸国にしてみれば、
 いまの日中関係は、日本か中国かの二者択一を迫っているとも言えます。
 しかし、靖国問題を持ち出されれば参拝にイエスとは言えないが、さりとて
 軍事的な脅威が見え隠れする中国を無条件ではアジアのリーダーとは認めた
 くない。とにかく良好な日中関係を保ってほしいというのがASEAN諸国の
 希望でしょう。

 さらに日本にとって重大なのは、ここへきてアメリカが、日中関係の悪化に
 重大な懸念を表していることです。昨秋ブッシュ大統領が訪日したときに
 小泉首相が数十分にわたって靖国参拝の正当性を力説しても、アメリカが
 中国の靖国参拝中止の要求を不当な内政干渉として非難してくれることは
 ありませんでした。日本の期待とは裏腹に、不干渉という形で同盟国日本へ
 の不同意を示しています。

 アメリカに靖国参拝への同意を求めるのは無理ではないでしょうか。靖国
 神社の遊就館という展示施設で上映される映画は、日中戦争、太平洋戦争に
 いたる日本の戦争は、欧米の侵略と戦う自衛を目的としたものであって、
 日本が侵略行為を起こしたことはなく、東京裁判は不当だと訴えています。
 アメリカの歴史認識とは全く異なるでしょう。戦後の国際秩序を否定する
 そうした靖国神社の見解については小泉首相の踏み込んだ発言はありません。
 わが国の伝統であり外国がとやかく言うものではないと繰り返しています。
 しかし、靖国神社は外国との戦争の歴史について特定の歴史観を表明して
 います。これではいくら他のところで小泉首相が戦争責任への反省の発言を
 述べても外国の声にかき消されてしまうでしょう。

 このような小泉首相の対応は、アメリカの保守派を日本から離反させ、知日
 派の孤立を招いて日本の国益を損ないかねません。対米協調を基調として
 いる小泉外交と大きく矛盾しているのです。

 また、わが国の伝統というのであれば、死ねば敵をも供養するのが武士道
 ではないでしょうか。小泉首相の好きな信長は桶狭間の戦いの前に「敦盛」
 を舞いました。源平の戦いでうら若い平敦盛を討った熊谷直実は出家し、
 その生涯を敦盛の菩提を弔うことに捧げた故事によります。しかし、靖国
 神社は朝敵を祭らない。敦盛よりもいたいけな子供たちも祭らない。日本
 にはいまだに戦争の犠牲になったアジアの方々のための追悼施設もないし、
 小泉首相は作るつもりもありません。

 このままでは、歴史問題を持ち出されるたびに、日本はアメリカやアジア
 諸国との関係に悪影響が及び日本の国益を損なうという悪循環に陥って
 しまうでしょう。問題の解決には「共感」と「関係国の利益」に訴える
 戦略が必要でしょう。難問です。歴史を徹底的に議論すれば、日本だけを
 標的にする中国の論理のおかしさは明らかになりますが、限界があります。
 確かに、まず中国を侵略したのはアヘン戦争以来の欧州諸国です。列強の
 介入を招いたのは腐敗した清朝の体制であり、中国の分裂と混乱と外国の
 介入が、日本に「明日は我が身」という恐怖を与え、自衛のための行動に
 駆りたてました。日本がアジアからヨーロッパの植民地支配を一掃したのも
 事実です。しかし、明治維新以来の日本が東洋の伝統を捨ててヨーロッパ流
 の植民地支配に乗り出し、アジアを侵略して深刻な被害を与えた事実は隠し
 ようもありません。歴史問題で国際社会から日本への全面的な共感を得る
 のは困難です。

 日本に残されているのは、「民主主義」と「戦後の世界への貢献」を広く
 共感を呼ぶ形で表現し、日本の主張の正当性と存在価値をアピールし、
 21世紀にも独立と繁栄を保つための国際関係を築くことではないでしょうか。
 それに成功したときこそ、北朝鮮の明らかな恫喝や中国の軍事プレゼンスの
 拡大に対して、国際社会が日本の立場と領土問題の歴史的正当性を理解する
 ことになるでしょう。それには、中国の対日政策の豹変と戦略意図をPRし、
 一党独裁体制の非民主的な部分を指摘することは重要でしょう。中国の
 「平和的台頭」を促す国際圧力になればよいのです。軍事的な緊張や反外国
 キャンペーンが、グローバリゼーションの中での成長を目指す中国にとって
 大きなリスクを伴うことを理解させることが重要です。幅広い情報公開も
 促すべきです。しかし、その上でも心の問題は火種として残るでしょう。

 いい知恵はないものでしょうか。和をもって尊しとし、敵をも手厚く葬った
 日本の伝統から学べないのでしょうか。そして、相手の心とふところを潤す
 ことはできないでしょうか。たとえ最初はギクシャクしても、日本国内に、
 日本人と一緒ではない、アジアの人々の追悼施設を作り、毎年国家としての
 追悼行事を行えないでしょうか。追悼行事を行う日を「アジアの日」として
 祝日にし、毎年そこに遺族と世界の首脳を招き、日本の平和と民主主義の
 誓いを聞いてもらい、納得してもらってはどうでしょう。また、アジア各地
 に慰霊施設を作り、日本の指導者がその国を訪れるときには必ずそこを訪問
 することとし、戦争被害者とその遺族への慰霊と支援を国家事業としては
 どうでしょうか。それが日本の伝統と文化を重んじたやり方でしょう。
 そして、大変難しいとは思いますが、相手が許せばお互いの遺族が集まる
 ことはできないものでしょうか。国民レベルでの慰霊、反省、赦し、共感と
 いうプロセスなしに日本はアジアで繁栄できるのでしょうか。地域の盟主と
 しての地位を盤石にするために、首都ベルリンのど真ん中、ブランデンブル
 グ門近くに自ら積極的に新たにユダヤ人への慰霊を行う追悼施設を作り、
 反省と同時に過去からの決別を改めて示したドイツの知恵に学べないで
 しょうか。

 今年の9月には新しい総理が選ばれるといいます。取りざたされる候補者の
 父祖には、アメリカとの単独講和と非武装路線に踏み切った吉田茂、福田
 ドクトリンでASEAN諸国との共存共栄関係を築いた福田赳夫、そして、戦前
 は東条英機の腹心として活躍し、戦後は一転して日米安保条約によって日米
 同盟を強固にした岸信介、さらにはその叔父で日本を国際連盟から脱退
 させた松岡洋右らがいます。重い歴史を背負った方々の後裔が出揃ったの
 です。いま中国はもとよりアメリカとの関係も揺らぎかねないときに、候補
 の方々は歴史問題を乗り越えるどのような政策を示されるのでしょう。

 当然、国民の審判を仰ぐ総選挙が、自民党総裁選後速やかに行われるはず
 です。小泉内閣の正当性は郵政民営化にしかないのは、総選挙の際に繰り
 返し小泉首相が述べました。上場企業で社長の交代が株主総会なしに承認
 されることはありません。まして、国民からのマンデイト(信任)のない
 首相はありえません。それが改革ではなかったのでしょうか。まさか後継
 指名によって首相が誕生し、院政が続くことなどないと信じたいです。
 民意を問わないのなら現首相が続投すべきではないでしょうか。与野党が
 この国の進む道を国民に示して選挙をすることは、議会制民主主義の本義
 からいって当然でしょう。対案を戦わせ、国民に選択を委ね、その結果に
 ついて国家として責任を持った行動をとる。それが民主主義の基本であり、
 そのコストとして、国民は巨額の負担をしています。今月から始まる国会
 では、小泉首相のみならず後継候補への質疑が本格化することを期待したい
 ものです。

 小泉さんの人気は世界的に高い。気を感じさせる方です。引退後は、アジア
 各地を回向して回られれば、たけきもののふのこころをもなぐさむるに、と
 拝察いたします。


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● 次号は2006年2月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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