関係者 様

そろそろ梅雨入りの地域もあろうかという季節になりました。皆さんお元気で
いらっしゃいますか。『山崎通信』第33号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信_____________2006.6.5_第33号
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┃靖国から教科書へ
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 久しくみられなかったことですが、外交、端的にいえば靖国参拝が、次の
 総理を決める重要ポイントになりつつあります。そして、日本は中韓両国
 に外交的に敗北しつつあります。残念なことです。

 昨年の4月22日、今年の1月24日の山崎通信でも触れましたが、小泉首相が
 いまのようなかたちで靖国参拝を続けることは、国際的な孤立を招くだけ
 です。

 靖国神社の展示施設では、日中戦争や太平洋戦争は日本の防衛戦争であり、
 日本に戦争責任はなく、東京裁判は受け入れられない、と主張しています。
 小泉首相はこの重大な主張についての賛否を明らかにせず、心の問題と
 して参拝を継続してきました。

 もちろん、戦争で死んだ兵士を国家が弔うのは当然です。また、勝者で
 あるアメリカやその連合国が戦争の悪から無罪であるわけはありません。
 アメリカによる原爆投下や全国の大空襲は無抵抗の市民の虐殺でした。
 また、1840〜42年のアヘン戦争で本格化したヨーロッパのアジア侵略が
 日中戦争の遠因であることも間違いないでしょう。マッカーサーは、
 神でない人間が行った東京裁判には必ずどこかに誤りがあるだろうと
 認めたうえで、戦争のない世界を作るためにこの裁判が必要だとしました。
 私の高校の先輩である広田弘毅元首相は、誤判の疑いが強い死刑を黙って
 受け入れました。南京事件の死者を弔う興亜観音を太平洋戦争前に建立した
 松井石根大将も従容と死に就きました。(刑死した7人のA級戦犯の遺骨は
 関係者の決死の努力で興亜観音に祀られ、吉田茂が碑を建てました。)

 戦後の日本は、国家として東京裁判を受け入れて、アメリカを中心とした
 自由主義陣営に参加しました。アメリカと戦ってまで守ろうとした国外の
 領土を全て奪われた日本が、世界第二位の経済大国になりました。世界が
 尊い犠牲を払って得た国連中心の平和体制の受益者になりました。その
 日本の首相が、東京裁判は無効だという靖国神社の主張に反対でなければ、
 日本は民主国家ではない、軍事大国化を目指している、といったあらぬ
 非難を認めるようなものです。そして、東京裁判を主導したアメリカとの
 対立に行きつきます。

 いま、外交戦略として日本が取り上げるべき歴史問題は、教科書と情報
 公開ではないでしょうか。経済では改革開放が進む中国でも、政治の根幹
 では言論の自由は著しく制限されています。とくに、国民の目から隠して
 きたのが、毛沢東が支配した時代の中国共産党の歴史です。戦後の大躍進
 という名の飢餓政策や文化大革命という名の権力闘争と恐怖政治の歴史は
 中国の教科書ではほとんど扱われていません。ここにきて、日中戦争時代
 の毛沢東指揮下の共産党が、スターリンの強い影響下にあり、粛清と弾圧
 を中国国民に繰り返していたこと、さらに日本軍の中国侵略をライバルの
 国民党たたきのために利用し、日中戦争を拡大したことが、中国の外では
 クローズアップされてきました。

 そのきっかけは、櫻井よしこさんも勧めておられますが、ユン・チアンと
 いう中国女性がジョン・ハリデイと共に書き、世界でベストセラーとなった
 中国では発禁の『マオ−誰も知らなかった毛沢東』という本です。この
 女性はかつて『ワイルド・スワン』という題名の文化大革命時代の中国の
 ドキュメンタリーを書いた人です。『マオ』では徹底的な調査に基づき、
 毛沢東の一生と共産党と中国の歴史を描いています。毛沢東が、ヒトラー
 やスターリン以上に人間を迫害し、日中戦争よりはるかに多くの国民を
 死に追いやったさまは戦慄を覚えます。100年にわたって群雄割拠と動乱
 が続いた中国を統一し支配するために、毛沢東は手段を選びませんでした。

 日本人にとって問題なのは、過去の全ての中国の歴史問題の責任は日本
 にあるかのごとき宣伝を、中国政府が1995年あたりから繰り広げたこと
 です。改革開放政策で広がる格差の問題から目をそらすかのようでした。
 それに反発するかのように小泉首相は靖国参拝を続け、石原都知事から
 No.1ハードライナーとしてのお株を奪い、人気を高めました。しかし、
 そろそろ日中双方が冷静に歴史に向き合うときでしょう。日本は、中国に
 対して毛沢東時代の歴史を正しく自国の歴史教科書に書くように要求すべ
 きでしょう。『マオ』の中国内の出版も求めるべきです。櫻井さんにどこ
 か似てたおやかなユン・チアンさんを招いて、国際シンポジウムを開くの
 もいいかもしれません。そして、世界に開かれた歴史の検証を提唱しては
 どうでしょうか。日中のみならず、ロシア(ソ連時代も)、イギリス、
 フランス、南北朝鮮、アメリカといった中国に深いかかわりを持った各国
 の歴史を検証すれば、アジアの歴史と過去の過ちへの共通理解が深まる
 でしょう。命がけで毛沢東から民衆の生活を守ろうとした劉少奇やケ小平
 の後継者であるはずのいまの中国指導部も、歴史の事実を受け入れる勇気を
 持つときでしょう。

 その上で、日本は中韓両国そのほかのアジアを侵略した自らの過ちに
 ついて再度謝罪するとともに、中国と朝鮮半島に対して、言論の自由と
 情報公開を強く求め、世界の世論と相手国の民衆からの支持を獲得
 すべきでしょう。

 これとは別に、日本が歴史を本当に将来への教訓にするためには、戦争の
 犠牲者をどう弔うのかしっかりした方向を決めるときでもあります。靖国
 神社に祀られているのは、明治維新以来の戦没兵士だけです。「生きて
 虜囚の辱めを受けず。」東条英機首相の書いたこの先陣訓に従って投降
 せずに投身自殺したサイパン島の若い母親は祀られていません。原爆や
 空襲で殺された子供たちも祀られていません。殺されたアジアの人たちも
 祀られていません。しかも、乃木大将や東郷元帥も西郷隆盛大将も祀られ
 ていません。戦争犠牲者の一部しか靖国神社は祀らないのです。

 一方で、敵国に逮捕され死刑となったA級戦犯は靖国神社に祀られています。
 戦争中に総理大臣、陸軍大臣、内務大臣、軍需大臣、参謀総長などを兼任
 した東条英機氏も祀られています。靖国神社によれば、日本国にも指導者
 にも戦争責任はないのです。戦争に不可欠な石油と鉄くずのほとんどを
 輸入していたアメリカと戦って負け、600万人の日本人が殺された責任は
 ないそうです。それでは、兵士と市民とアジアの人々は誰の責任で死んだ
 のでしょうか。靖国神社は宗教法人だからどんな主張をしようと国家から
 自由だと言います。それでいて、国家の最高指導者の参拝を求めます。
 矛盾しています。いまの靖国神社は、日本国の総理大臣が不戦の誓いを
 するのにはまったく不適格な場所です。国益を損なうことなく総理の
 参拝を求めるならば、『エコノミスト』誌のエモット元編集長が指摘した
 ように、靖国神社を国家管理にして日本政府の歴史認識と整合性のある形に
 するしかないのでしょうか。それでいいのでしょうか。

 これからの日本には、国家と戦争のために犠牲になったすべての人たちを、
 わだかまりなく追悼できる新たな施設が必要です。そうでなくては、天皇
 陛下、総理大臣をはじめとした内外の国民が平和の誓いをする場としては
 不完全になります。この一歩を踏み出すことが次の政権の課題ではない
 でしょうか。


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● 次号は2006年7月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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