関係者 様

そろそろ蛍が飛び交うころ、お変わりなくご活躍のことと存じます。
『山崎通信』第41号をお届けいたします。

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____山__崎__通__信_____________2007.6.8_第41号
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┃G8より米中経済同命
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 今から20年ほど前、ジャパン・アズ・ナンバーワンという言葉が世界で語ら
 れていました。鉄や造船、半導体や自動車、家電製品。日本のものづくりが
 トップに立ちました。

 日本経済の力を世界に示したのが、1985年9月22日に発表されたプラザ合意
 でした。誇り高いアメリカが、それまでの為替市場不介入という政策を
 放棄し、日本とドイツと共同でドルを買い支える行動に出たのです。
 それがG3になり、イギリスとフランスを加えてG5になりました。お金の
 グローバリゼーションの幕開けでした。

 その年に1ドル260円にも達していた円ドルレートは、プラザ合意から2年で
 1ドル120円台まで円高になりました。強くなった円で、日本人がアメリカの
 不動産や会社を買いまくったものでした。

 プラザ合意には、隠れた主役がいました。アメリカ国債でした。70年代に
 財政が破たんし、国内では財政赤字をまかないきれなかったアメリカは、
 80年代に入って日本に対して金融自由化という名目でアメリカ国債を買う
 ことをすすめました。そのころのアメリカ国債は10%をゆうに上回る利回り
 でしたから、日本の金融機関にも渡りに船でした。こうして、80年代前半の
 日本からの怒涛のようなアメリカ国債買いが始まったのでした。それが
 大幅に円安を呼び、アメリカは日本を非難し、貿易摩擦が激化しました。

 アメリカのために国債を買ってあげたのに、円安が日本のせいだとアメリカ
 が非難するなら、日本政府は外為法を発動してアメリカ国債の購入を止め
 たらいいでしょう。小生がこの提案をしたところ、徳山二郎さんから中曽根
 首相に伝わり、その発表があったのがプラザ合意の2週間前でした。その日
 からマーケットは大きく変動し日本の力を見せつけました。そして、
 アメリカが日本への一方的非難の姿勢から180度転換し、政策協調に踏み
 切ったのがプラザ合意でした。(「米中経済同盟を知らない日本人」第2章
 ご参照)

 あれから20数年後の今年5月。アメリカの財務長官であるヘンリー・ポール
 ソンはドイツで開かれたG8財務相会合を欠席し、翌週に中国の呉儀副首相を
 ワシントンに招いて、米中経済戦略対話を数日に亘って行いました。
 アメリカ経済にとっては、日本やヨーロッパやロシアよりも中国が大事だ、
 という意思表示でした。米中経済同盟と表現せざるをえない関係です。

 その主役は人民元です。1989年の天安門事件頃から世界一の外貨準備を
 持つ今まで、人民元の対ドルレートは約半分まで安くなりました。20年で
 1ドル360円から80円までと、5倍近いすさまじい上昇を経験した円とは
 大違いです。あまりに安い人民元は修正されるでしょうが、年率1割以下の
 ゆるやかなものになるでしょう。

 米中経済同盟が運命共同体だからです。「同命」なのです。中国から
 アメリカに輸出する主役はアメリカ企業です。天安門事件で世界から経済
 制裁を受けて孤立してから、ケ小平(とうしょうへい)率いる中国指導部は
 徹底的な外国企業優先の政策を始めました。無税で、土地も労働もただ同然
 で提供します、というふれこみでした。

 ターゲットはアメリカ企業でした。日本やヨーロッパ企業もついてきま
 した。いったん中国に進出した外国企業にとっては、安い人民元こそ利益に
 なるのです。ドルや円に換算して、中国の労働や不動産のコストが安くなり、
 利益が急増するからです。かくして、人民元を本気で高くしようという圧力
 は、中国に進出するような世界的企業からはほとんどありません。もし、
 人民元が、半分にならずに円のように5倍になっていれば、外国企業の中国
 で生産コストが今の10倍になってしまいます。だから、安い人民元は、
 中国人民と外国企業の「共通の利益」なのです。

 こうして、中国に進出したアメリカ企業は高い利益を上げ、株は上がり、
 アメリカ人の金融資産は増えました。アメリカ人は銀行預金より株や投資
 信託をはるかに多く持っていますから、景気が良くなり、消費が増え、
 雇用が増え、賃金も上がりました。経済全体が豊かになりました。おまけ
 に、中国から安い製品が入ってきて物価が抑えられましたから、石油の
 値段が急上昇しても、インフレが起きずに金利は低いまま、ますます
 企業が儲かるという図式が生まれました。これが、グリーンスパンが
 謎(コナンドラム)と言ったものの正体でした。

 といっても、アメリカ中がもろ手を挙げて中国を歓迎しているわけでは
 ありません。むしろ、アメリカの政治の世界では、中国への非難が
 高まっています。豊かな中国の軍事支出の増加や世界中の資源を確保
 しようとする動きが警戒感を高めます。中国に仕事を奪われた地域の不満
 は渦まき、ファンドや大企業など中国発のグローバリゼーションで儲けた
 人たちに非難の目が向けられます。中国の環境汚染や人権問題にも厳しい
 目が向けられます。育ってきた国内企業を伸ばすためにも、中国政府は
 外国企業への税金の優遇措置撤廃を決定しました。

 そんな微妙な政治的圧力のなかで、米中の当局者が始めたのが、米中経済
 戦略対話でもありました。そこから一歩踏み込んだ提案も出ました。なんと
 中国政府が、世界最大のプライベートエクイティ・ファンドであるブラック
 ストーンの10%の株を外貨準備で購入することを決めたのでした。

 なんという皮肉でしょうか。日本が外貨準備を使って、4%台にまで下がった
 アメリカ国債を、年間税収を上回る70兆円も持っているのに、共産中国が
 今もっとも先鋭的で高い利益を上げるファンドの最大の外部株主に躍り
 出るのです。財政危機であり新しい戦略パートナーが必要な日本こそ、
 インドをはじめとして高成長の地域への戦略投資に外貨準備を振り向ける
 べき(「米中経済同盟を知らない日本人」第3章ご参照)なのに、中国に
 完全に先を越されました。こんなことでは、日本軽視は続くでしょう。

 Gの体制に中国を参加させ、同時に日本が得意の環境・省資源の分野と経済
 成長をリンクさせる。中国の為替と金融・財政への発言権を、日本も確保
 すべきです。

 安い人民元も、高い中国の株価も、日本の地方の衰退も、そして海を
 渡って日本にやってくる中国からの大気汚染も、みんなつながっているの
 ですから。

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 約1年半かけて書きました。
 是非お手にとってみていただき、皆さんのご意見・ご感想をお寄せ
 いただければ幸いです。

 『米中経済同盟を知らない日本人』徳間書店 定価1,680円(税込み)
  http://g.ab0.jp/g.php/9AGey0Zrsl1J1gwUeU

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 ●次号は2007年7月中旬にお届けいたします。どうぞお楽しみに!

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