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____山__崎__通__信_______________2006.03.17_
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 関係者様

 号外をお送りいたします。

 お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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┃株は上がり国債は下がる。するとどうなる。
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 昨年の3月23日付の山崎通信(これから日本株が上がるわけ)では、日本株
 が上がる理由を説明しました。そのときの日経平均株価は、11,739円でした。
 3月15日現在の日経平均株価は、16,319円です。約1年で39%上昇しました。

 昨年3月に指摘したのは、日本企業が史上最高の利益を上げ、さらにこれ
 から利益の増大が見込めるのに、株価が、その当時は1989年のピークの3分
 の1以下であることでした。あれから1年経ちますが、これからも株価は
 上昇を続けると予想できます。企業の収益がさらに上がることが予想される
 からです。もちろんリスクはあります。ほとんどが海外のものです。すでに
 5%近くまで金利をあげてきたアメリカが、バーナンキFRB(連邦準備制度
 理事会)新議長の下でさらに金利を上昇させたとき、すでに金利上昇への
 抵抗力が弱まっているアメリカの住宅市場や中国の金融市場が、クラッシュ
 しないのでしょうか。イランの核開発で、アメリカを中心に多国籍軍が作られ
 て空爆などが行われ、それに対して多国籍軍の参加国にテロ攻撃などが
 行われれば、石油価格の急騰と世界の株式市場の下落は避けられない
 でしょう。そうした事態が起きれば、もちろん日本も影響を受けます。
 もっと予期せぬことも起きるかもしれません。

 しかし、日本経済は底堅いです。企業が復活したからです。だから、そう
 した事態が起きなければ、これから株は上がるでしょう。そして、国債は
 大きく値下がりするでしょう。下手をすると暴落します。自然な現象です。
 それに対する備えが必要になります。

 日本企業が復活してきたのは、コストは下がり、売り上げが増えたから
 です。かつて、1990年から株式市場の暴落と民間経済の破綻が始まった
 のに、金融の全面引き締めを継続するという重大な失政を行いました。
 それによりバブルは大崩壊しました。官民共同で長期の経済停滞に突入して
 以降、生き残った企業は、コスト削減に努めました。人と設備投資を減らし
 ました。そして、資金も減らしました。過去10年ぐらいを見ると、企業は
 借金の返済に精を出し、そのおかげで、統計上はなんと貯蓄主体になった
 のです。教科書では企業は借り入れ主体のはずが、逆転したのです。もち
 ろん、家計は貯蓄主体です。唯一の借り入れ主体は政府部門でした。民間の
 不良債権問題や景気対策などの負担を政府が担ったのが主因です。それが
 財政赤字を膨らませました。しかし、企業の資金需要がマイナスなので
 ゼロ金利が維持でき、巨額の国債の発行も吸収できたのです。この異常な
 世界が終わります。いいことです。

 企業は再び拡大に向かい、資金の借り手になるでしょう。資金が必要だから
 です。海外をはじめとして、日本製品への需要は強いです。国内も復活して
 きました。一方で、生産要素すべての値段が上がっています。大都市の
 不動産は上がり続けています。団塊の世代の引退が見えてきて、企業は大量
 採用に踏み切り、人件費は増えていきます。石油をはじめ一次産品の価格
 上昇が大きいです。手をこまねいていては、せっかくの受注も生産資源も
 ライバルに取られてしまいます。企業の競争が始まっています。資金が必要
 になってきたのです。

 資金を外から取り入れるのには二つの方法があります。株を発行するか、
 借金をするかです。日本株がいま投資家にとって魅力的というのは、株を
 発行している企業にとっては困ったことです。いま上場企業の株主資本
 利益率(ROE)は10%に近いです。ということは、企業が株主に渡さなくて
 はいけないコストが10%近いということになります。一方で、優良企業なら
 債券を発行して借金するコストは、まだ1%台です。どちらが安いかは明ら
 かです。しかも、株だと株数が増えて一株あたりの利益が下がり、株が
 下がりやすくなります。債券ならむしろ一株あたりの利益は増えて、株が
 上がりやすくなります。どちらが株主に喜ばれるかも明らかです。今まで
 借金を減らしてきたから、過大な借金というリスクも少ないです。これ
 から、企業の社債発行が増えていくことが予想されるわけです。現に、
 ソニーなどは久しぶりに大型の社債発行に踏み切るようです。

 つまり、企業から借金というお金への需要は増えていくでしょう。しかも、
 政府の資金需要は今後も高いでしょう。高齢化の負担が増えるのはいまから
 です。

 一方で、資金の出し手である家計からのお金の供給は大きく細っています。
 かつて世界一の貯蓄大国だった日本の貯蓄率は、1995年の11.9%から2004年
 には3.1%まで急落しています。団塊の世代が引退し、貯蓄主体から消費
 主体に変わるのですから当然です。さらに、引退世代は、おとなしい貯金者
 から、アクティブな投資家に変貌しつつあります。引退して時間ができれば、
 ゼロ金利に満足せず収益を追求する、という当たり前の賢い行動に移って
 いるだけです。もちろん、株や不動産が上がってきたからでもあります。
 外債の人気も高いです。預貯金はなかなか増えないどころか、引き出される
 可能性が高いのです。ということは、国債や社債の最大の買い手である銀行
 や郵貯への資金は増えないから、借金へのお金の供給は増えないでしょう。

 こうしてみると、借金の取り手は増え、貸し手は減ります。言い換えれば、
 お金の需要は増え、供給は減ることになります。そうなると、お金の値段が
 上がります。お金の値段とは金利です。つまり、国内の経済を見る限りは、
 金利はこれから上がるでしょう。もちろん、海外発のショックなどがあれば、
 世界の金融当局同様に、日本でも迅速に金利を下げるはずですが。

 いまから起きるのは金利の正常化プロセスに過ぎません。短期金利がゼロで、
 10年国債の金利が1%台という現状が異常なのです。それによって、年金や
 保険や高齢者の貯蓄は甚大な影響を受けてきました。なぜなら、国債金利が
 4〜5%であることを前提にこうした制度は組み立てられています。失われた
 利息収入は巨大でした。速やかに正常な金利に戻らなくてはいけません。

 だから、金利正常化への第一歩として、日銀が無制限な量的緩和をやめたの
 は当然です。ところが、政府の一部や海外メディアの中には、日銀を非難し、
 まるで市場の暴落が起きるような主張が見られました。そういう向きは、
 FRBのグリーンスパン前議長の実績を思い出していただきたいと思います。

 1993年11月に不良債権問題の終了を宣言したグリーンスパン議長は、翌年2月
 から大幅な金利上昇に踏み切り、政策金利を3.25%から6%に引き上げ、
 インフレの芽を摘みました。国債市場は暴落しましたが、そのおかげで90年
 代のアメリカはインフレなき高度成長を実現し、経済ナンバーワンの地位を
 日本から取り戻したのです。英断でした。その後も議長は、株式市場が加熱
 した2000年には政策金利を6.5%にまで上げ、ITバブルが崩壊すると一転
 して1%にまで下げるという荒業を実行しています。その間、インフレ率は
 一定でした。いま流行のインフレターゲットなる拘束衣のような政策枠から
 は、とても出てこない政策の柔軟性でした。それを可能にしたのは、議長の
 優れたマーケット感覚だったのです。

 対照的に、日本の金融当局は、80年代と90年代に失敗を重ねました。80年代
 は金利を低く据え置いて、不動産と株式のバブルを野放しにしました。決定
 的な失敗は、1990年から株式が暴落したのに、日銀も大蔵省も金融引き締め
 を続けたことです。91年には国債の金利は8%に達し、価格は暴落しました。

 今年からの日本はどうなるのでしょうか。金利正常化と国債の価格下落と
 いう自然現象が、今後起きることさえ否定する政策当局者が多いようです。
 そうした当局者は、一方で、年率4%などという高い名目経済成長が続くと
 しています。すると株は上がるはずです。現に、2003年から株価はすでに
 2倍程度上昇しています。ところが、経済も株も上がるのに、金利は上がり
 ません、だから国債は値下がりしないのだと主張しています。1989年末、
 金利が上昇し始め、国債は暴落していたのに、株だけは10万円まで上昇
 するといった人たちが多くいました。そんな人たちに似ています。

 いまは逆に、株が上がり続けているのに、金利は上がらない、国債は下がら
 ないと主張をしています。曲芸としか言いようがありません。確かに、国債
 金利が上がり、国債の値段が下がれば財政当局にとっては都合が悪いで
 しょう。国債の金利払いが増えるからです。

 それだけではありません。危機が最初に来るのは、郵貯かもしれません。
 郵貯の資産はほとんどが長期国債である一方、債務の6割弱が定額貯金と
 いう、いつでも100%で(つまり期間は実質超短期で、かつ貯金者に有利な
 オプション付きの)債務支払いに応じなくてはいけません。国債の価格下落
 が起きれば、大きな損失リスクを負うでしょう。資本金やその他の換金可能
 な資産はわずかしかありません。破綻リスクは大きいでしょう。もし、損失
 が発生すれば、国庫の負担になります。つまり、郵貯の問題は、定額貯金
 契約者の有利な運用を国民全体の負担で守る、という構図になるのです。

 こうしてみれば、郵政民営化は決してばら色ではありません。むしろすぐに
 対処し、定額貯金の廃止か大幅縮小、運用の国債脱却と証券化への運用など
 が必要なのは、本通信がこれまで述べてきた通りです。過去の面子を捨て
 ても、国民利益のために大胆に実行すべきでしょう。

 財政当局や一部の政治家に都合が悪いからからといって、金利は上がらない
 という前提で金利引き上げに反対すればどうなるでしょうか。80年代の
 バブルの放置、一転して90年代の暴力的金利上昇を繰り返すのでしょうか。

 幸いに、いまの日銀は福井総裁のリーダーシップもあって、圧力を跳ね返し
 つつ、正しい道に踏み出したようです。今後も大変でしょうが、現実を踏ま
 え、報告・連絡・相談は十分に果たしつつも、必要な決断は断固実行し、
 日本経済の長期的な復活のかじ取りをお願いしたいものです。

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