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____山__崎__通__信_______________2007.8.16_
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 関係者様

 号外をお送りいたします。
 
 お知り合いの方にも、このメールを転送いただければ幸いです。

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┃76%対7%
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 2年前の郵政民営化選挙では、自民党が三分の二の絶対多数を取りました。
 今年の年金選挙では、自民党は惨敗しました。なにが、これほどの変化を
 生んだのでしょうか。

 顔に貼った絆創膏のわけを言わなかった大臣のせいでしょうか。その他の
 大臣の放言や不祥事や悲劇のせいでしょうか。歴代政権の年金政策の欠陥を
 放置したからでしょうか。若い総理のリーダーシップへの疑問符でしょうか。

 どうもそれだけでは納得できません。安倍政権は、小泉政権を引き継いで
 高い株価とGDPの成長を実現しているように見えます。それなら、国民生活
 は改善しているはずです。小泉時代にあれだけ冷え込んでいた中国とも、
 安倍政権では首脳間の交流が復活し、反日デモは影を潜めました。

 なぜ、小泉政権はあれほど高く国民に評価され、安倍政権は手痛い敗戦を
 こうむったのでしょうか。なぜ、国民は自民党が主張した成長と安定を
 捨てて、実績のない民主党に圧勝をもたらしたのでしょうか。

 小泉政権の最大の実績は、どん底にあった日本経済を救ったことでした。
 90年代にバブルがはじけたのは世界的現象でした。他の先進国は、1993年
 ごろには不良債権問題を処理して成長軌道に乗りました。ところが、日本
 だけが、問題を先送りしたあげく膨張させました。いくら財政支出を拡大
 しても、不良債権が膨らむばかりでした。大銀行や大企業の多くが巨額の
 赤字を出し、存亡の危機にありました。そんな2001年4月に誕生したのが、
 小泉政権でした。

 小泉政権は、欧米諸国と基本的に同じことを実行しました。財政資金を投入
 して、銀行や企業の損失を政府が負担し、救済融資をしました。再生でき
 ないケースは、清算や整理統合をさせました。そうしたプロセスの中で、
 旧来の取引関係や雇用の多くが断ち切られました。業界や政官とのしがらみ
 も見直さざるをえなくなりました。日産自動車を経営危機から救った
 カルロス・ゴーン社長が時代のヒーローになりました。「日本は変わらなく
 てはいけない」、「自民党をぶっ壊す」という小泉フレーズが響き渡り
 ました。

 小泉政権は、日本の大手術のために、資本の論理を活用しました。手術の
 成功を最初に表したのが株式市場でした。竹中金融担当大臣がりそな銀行
 への公的資金の注入を発表した2003年4月16日から、7000円台にまで低迷
 していた日経平均は上昇を始め、小泉首相が退陣した昨年の9月26日には
 15,557円を記録しました。いまや上場企業の収益は史上最高を記録して
 います。それに引っ張られて、日本のGDPも上向いてきました。日本全体が
 成長しているようです。日本経済株式会社の社長としては、小泉首相は
 申し分のない成果を出したように見えます。ところが、昨年9月に小泉首相
 から事実上の後継指名をされた安倍政権が、かくも大きな敗北を蒙り
 ました。

 経済と選挙では「投票」の構造がまるで違うことが、安倍政権の敗北の
 大きな原因ではないでしょうか。そして、市場経済と国民生活の利害が
 かけ離れてしまったことに、選挙で投票する国民が気づいたのではないで
 しょうか。

 経済での投票の代表といっていい株式市場は、トップ企業の業績に大きく
 左右されます。つまり、経済の投票は、トップ企業で決まります。日本の
 株式時価総額トップ50社のうち、東京に本社があるのは38社に上ります。
 実に、76%です。東京を制するものが株式市場を制します。

 選挙での投票は、株式市場とは大違いです。参議院の73の選挙区の議席の
 うち、東京からはわずかに5議席、全体の7%でしかありません。東京以外
 を制するものが選挙を制するのです。小沢民主党は、この当たり前のポイ
 ントを突きました。とくに、一人区と呼ばれる地方に重点を置き成功しま
 した。さらに、生活の不安や格差の拡大の訴えが、今回は大都市でも響い
 たようでした。

 地方と東京の経済力の格差、そして東京の中での生活の格差は、いま戦後
 でもっとも広がっています。かつて自民党が得意とした「国土の均衡ある
 発展」や「一億総中流社会」は死語と化しました。米中経済同盟を機軸と
 するグローバリゼーションが進む世界では、トップ企業には、もはや人口
 も消費も減る日本の地方を省みる余裕がありません。業績も株価も伸びて
 いるのは、キヤノンやトヨタ、商船三井、三菱商事、小松製作所、ファ
 ナックなど、日本よりも海外で生産や売り上げや投資の大半をあげる企業
 です。日本の生産現場の賃金や工場用地の地価は、中国やインドとの競争
 にさらされて抑制されます。一方、世界での利益は飛躍的に増え、株主や
 経営側の報酬は高まります。グローバリゼーションによる格差の問題は、
 日本にも大きな影響を及ぼしています。

 こうした環境変化のためでしょう。経済界の要望も変化しました。日本で
 のコスト抑制が最優先になりました。もはや、全国の国民の所得を増やし
 て企業の売り上げを増やすことは期待しなくなりました。さらに、
 これから20年で高齢者が1000万人近くも増えると予想されているのに、
 医療費や年金の負担を増やすな、とも言います。教育にかけるコストも
 抑制です。そうなれば、財源が乏しい自治体は直撃され、住民サービスに
 格差が広がります。これでは、太平洋ベルト地帯中心の20世紀型経済から
 医療や福祉や教育を中心としたサービス産業中心の社会への転換も進み
 ません。土木事業などを減らされた地方には、次の産業も育ちません。

 小泉政権の民営化の失敗も、地方を中心に国民生活を苦しくしています。
 小泉首相が余っていると言った道路財源を、新規道路の建設でなく高速
 道路の借金返済に充てれば、通行料金の無料化が実現できるのに、道路
 公団民営化の名の下に世界一高い料金を温存し、一方で道路財源を一般
 財源に使うというチグハグがその最たるものです。(もっとも、高速道路
 無料化をマニフェストに挙げた民主党も、その財源に道路財源を使うこと
 を明言しませんでしたから不徹底です。)おかげで、クルマしか事実上
 交通手段が無い日本の9割の国土の交通コストは高いままです。地方経済
 の強みは地価が安いことのはずですが、こうも自動車のコストが高くて
 は、簡単に地方に行けません。そんな不便な日本の地方に、世界から
 観光客が来るはずもありません。まして企業が東京から本社を移したり
 できません。

 郵便局だけ悪者にした郵政民営化も、肝心の経営改革が進んでいません。
 田舎の生活インフラである郵便局を閉鎖して、大都市で民間の銀行や
 保険会社と競争するつもりなのでしょうか。財政負担のリスクがある
 定額貯金に依存する経営も続いています。

 こうしてみると、いまの日本は、過去のイギリスに、一脈ですが、通じる
 ものがあります。非効率な国営企業中心のイギリス経済が破たんの危機に
 あった80年代の初めに登場した保守党のサッチャー首相は、市場原理と
 民営化を大胆に導入し、国の大手術を行いました。大企業は業績を伸ばし、
 グローバル化によってシティの金融業界は活況を呈し、経済は復活しま
 した。もちろん、株は大きく上昇しました。しかし、その後を忠実に引き
 継いだはずのメジャー首相は、97年にあえなく労働党に政権を譲りました。

 サッチャー改革によってイギリス社会が戦前の大恐慌時代のような格差の
 大きな社会になったのに、後継者のメジャー政権が有効な対策を打てな
 かったことへ、国民の不満が高まったからでした。貧困家庭の割合が急増
 し、十分な教育のチャンスがない子供たちが増えました。若者の多くが
 教育や訓練の機会が無く失業し、ニートと呼ばれました。民営化した
 郵便局や鉄道の経営もうまくいきませんでした。

 メジャーから政権を奪ったブレア首相の政策は、サッチャー改革の成功は
 継承し、失敗を補うものでした。サッチャー路線を継承して、アメリカと
 の同盟関係を強化し、金融分野での市場原理やグローバリゼーションに
 対応しました。いまではロンドンは世界一の金融市場の地位を確立しつつ
 あります。外国企業への市場開放や誘致を進め、イギリスは世界一外国
 企業が進出する国になり、地方の活性化が進みました。グローバル化と
 ローカル化を一緒にやったのでした。一方、サッチャーとは違って、
 ブレアは、教育や医療には思い切って国の予算を増やし、若者への就職の
 支援を実行しました。貧困家庭の比率や若者の失業は減りました。
 こうした分野では大きな政府を実現したのです。こうした路線を「第三の
 道」と称しました。

 小泉政権から引き継いだ安倍政権も、ブレアに似た政策を打ち出しました。
 教育の重視、若者の雇用の支援、子育て支援、医師確保のための緊急対策、
 サービス業の育成、と並びます。でも肝心の予算は大して増えません。
 財政破たんで小学校を減らさなくてはいけないような自治体は夕張市だけ
 ではありません。そんな中で、市場原理の名の下に、テストの結果が悪い
 学校には予算を減らすというような政策が行われようとしています。
 すると、給食費が払えない家庭が平均して4割に達する足立区のように、
 小学校の校長先生以下がテストの成績をごまかすような悲しい事件が
 起きます。

 いつの時代も、政府の役割は市場の失敗を補うことです。日本より海外で
 伸びようとするグローバリゼーションが大企業にとって不可欠ならば、
 政府が、グローバリゼーションで増える税収を活用して医療や教育の質と
 量を高め、国民の能力と生活が高まることによって次の高度な成長を
 もたらすという、実はイギリスだけでなくシンガポールなども実行して
 いる戦略が、日本の政治にも財界にも欠けています。

 そんな日本には、一攫千金を狙うファンドがやって来て、都心の不動産や
 上場企業を買っています。伸び盛りのアジアの企業などは、日本には
 なかなか来ません。一坪1億円を越える東京はコストが高すぎ、土地が
 安い地方は不便なのです。日本では、経済のグローバル化は、日本から
 出て行くことでしかありません。グローバル化がローカル化には進み
 ません。東京のすぐそばでさえそうです。

 上海と羽田を結ぶ航空路が開設されるそうですが、アクアラインを
 使えば羽田からわずか20分で行ける木更津の広大な土地は、一坪10万円
 以下で放置されたままです。アクアラインを通るには、片道2300円もの
 通行料を払わなくてはいけないからです。でも、民営化に伴い高速道路
 の借金は一本化するはずですから、アクアラインの債務と首都高速の
 債務は合算できます。そうなれば、アクアラインは首都高速の一部に
 なり、事実上無料になります。この程度のことは即できることです。
 なのに実行されません。まして、本州四国連絡橋を無料にしたり、福岡
 や北海道や沖縄からアジア中に直接飛行機を飛ばしたりするような動き
 は起きていません。

 東京中心で、日経平均さえ上がれば成長だ、といわんばかりの経済運営
 は限界に来ています。それでは、結局、日経平均も壁に突き当たります。
 国民が豊かにならなければ、息の長い成長はありえません。

 誰が日本のブレアたりうるのか、あるいは、ブレアを超えるのか、まだ
 見えていません。答えが出るのでしょうか。


 追伸です。
 年金問題がクローズアップされ、社会保障カードや年金通帳などの
 サービスが提案されています。でも、いまでさえ国民への対応体制が
 不十分な社会保険庁では、1億人の公的年金加入者へそうしたサービス
 を提供できないことは明らかです。
 
 一方、2年前にあれだけ選挙の焦点になった郵便局は、2万を超える拠点を
 持ち、根強い国民の支持がありながらも、民営化後の新しい経営の姿を
 描ききれていません。

 これからは、郵便局が国民への年金サービスの窓口になることが、年金
 問題と郵政民営化の解決策になる、去年からそう申し上げてきました。
 8月20日発売のエコノミスト誌に「年金問題の解決に郵便局が有効活用
 できる」というタイトルの小論文でその考えを展開いたします。
 ご一読いただければ幸いです。この問題については、今後も深めて
 いきたく存じます。ぜひ、ご意見をいただければ幸いです。


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 約1年半かけて書きました。
 
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 今回のメールマガジンのテーマは、第一章の「再び『大きな政府』の時代
 が来る」と特に関連しております。是非お手にとってみていただき、
 皆様のご意見・ご感想をお寄せいただければ幸いです。


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