関係者様

山崎通信号外をお届けいたします。

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____山__崎__通__信_______________2007.12.14_
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┃企業よ、ふるさとに帰れ
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《米中で地方経済が活性化した端緒は税金の自由化だった》
 十和田湖に行ったことがありますか。鉄道はありません。小坂インターチェン
 ジで高速道路を降りて、山道に入ります。途中の小高い丘の上から見えるの
 は、一面の樹々の海が見渡す限りうねる姿です。

 やがて峠に着くと、切り立った山々に囲まれて輝く湖面が見えてきます。
 先日訪れたときは、最後の紅葉が周りの山と谷を染め、湖面に反射していま
 した。

 湖に下りると、澄み切った水底の玉砂利が揺らぎ、たまに魚の影が走ります。
 静かです。湖畔の細い道を歩くと次々に出合うのは、ブナやカツラの巨木たち
 です。1本でまっすぐに立つもの、2本3本の太い幹が絡まるように立つもの、
 すべすべとした樹皮のもの、ワニのようにごつごつしたもの。森の霊気を胸
 いっぱいに吸い込んで、葉っぱのじゅうたんの上を歩けば、様々な樹の姿に
 出合えます。

 そして夜。周りに人明かりがまったくない十和田ホテルの窓を開け放つと、
 満月が湖水に銀の帯を作って輝き、山々だけが深い闇に沈んでいます。

《豪華な劇場、電気塔、外国人向けホテルの並ぶ鉱山町》
 十和田湖の秋田県側が小坂町です。戦前の小坂町は、日本で一番所得水準の
 高い町の一つでした。大正時代の小坂町の人口は30,000人、秋田県の市町村
 で第2位と言い伝えられており、秋田銀行小坂支店が出来たのはちょうど100年
 前です。

 歌舞伎も上演出来る和洋折衷様式の康楽館という劇場まで出来ました。
 町を見下ろす丘の上には巨大な電気塔が立ち、夜の街を煌々と照らし、人々
 は遅くまで出歩くことが出来ました。戦前に、幻の東京オリンピックに来る
 外国人のために作られたのが十和田ホテルでした。

 小坂町の富を生んだのは、明治初めに官営鉱山としてスタートし、ドイツ人
 の技師を招いて開発した小坂鉱山でした。金銀銅などを産出し、別子、足尾、
 尾去沢などをしのいで日本一の産出高を誇る鉱山でした。

 当初は露天掘りの銀の採掘が主でしたが、資源が枯渇して一時産出量が低
 下しました。しかし、黒鉱と呼ばれる東北地方独特の複雑な構成の鉱石から、
 様々な金属を取り出す技術を開発し再び生産を増加させ、多くのヤマが開か
 れて隆盛を極めたのでした。

《日本の近代産業を生んだルーツ》
 小坂鉱山を開発した藤田伝三郎の藤田組は、DOWAホールディングスや藤田
 観光の母体です。そして、黒鉱の技術開発に成功して小坂鉱山を復活させた
 藤田の甥の久原房之助は、のちに日立鉱山を興しました。さらにそこから
 日立製作所が生まれました。まさに、小坂は日本の近代産業のルーツの一つ
 です。

 繁栄の一方で、小坂の精錬工場から出る煙は辺りの木々を枯らせました。
 また、他の大鉱山と同様に、戦争の時期には、労働力不足を補うために、
 強制的に連れてこられた朝鮮人が過酷な環境で働かされて、多くの人が
 小坂の地で亡くなりました。

 そして戦後、小坂は、長い間忘れられました。鉱山の産出量が減るとともに、
 海外で安いコストの大規模鉱山が次々と開発され、小坂鉱山の競争力は失わ
 れ、ヤマは閉鎖されました。小坂町の人口は6,500人程度にまで減っています。

 そんな中で、小坂町は奮闘してきました。かつての繁栄の象徴だった康楽館
 を大切にして日本最古の現役芝居小屋として存続させ、歌舞伎の中村勘三郎
 さんの襲名披露公演や松本幸四郎さんの公演を大入りで呼ぶほどになりまし
 た。

 目の前の花道で勘三郎さんが走り、こちらにも汗が飛んできました。本当に
 面白い芝居でした。一方、康楽館の隣にある、華麗な様式の旧小坂鉱山事務
 所は、博物館として整備され、往時の小坂の歴史と繁栄を追体験出来ます。

《鉱山と環境技術研究で外国人研究者を呼ぶ》
 過去を懐かしむだけではありません。枯れてしまった周りの山に植えた250万
 本のアカシアの花が咲く6月には、アカシア祭りを行って観光客を誘致します。
 今年は小坂のアカシアの香水や化粧品を資生堂が発表しました。

 アカシア並木は日本の道百選にも選ばれました。国際交流も行っています。
 小坂町には、アジア・アフリカを中心に世界から鉱山技術を学びにくる人たち
 の研修施設があり、町民と交流しながら毎年巣立っていきます。環境技術に
 も積極的です。木からメタノールを取り出すクリーンエネルギーの研究も
 小坂町で始まります。

 苦しくてもがんばる小坂町を引っ張っているのが、川口博町長です。昔の
 小学校のような古い町役場の席を温める暇もなく、すぐに飛んでいき、人に
 会い、ゴムまりのように弾む人。そして、今日楽することよりも子供たちと
 地域の将来を考えている人です。山形県での私の講演を聞きに来てくれた
 小坂町の課長である藤原さんの紹介でお目にかかったのが、川口さんとの
 縁です。今では、私も、45人を数えるようになった小坂町観光大使の1人です。

 その小坂町の最大の星が、小坂鉱山の復活です。といっても、またヤマから
 鉱石を掘ろうというのではありません。都市を鉱山に変える、このすごい
 ビジネスが今小坂から現実になっているのです。

《家電や携帯電話を現代の“鉱山”に変える》
 「人類はもはや地中から鉱物を掘り出す必要はない、必要な鉱物はすべて
 我々の周りにある。世界を結ぶコンピュータネットワークと微細なものまで
 認識し区別する技術が、資源の循環を可能にする。これが出来なければ、
 宇宙船地球号は破滅する。技術を阻むものは政治であり欲望である」

 こんな衝撃のメッセージを送ったのは、現代のダヴィンチといわれジェミニ
 計画も設計したバックミンスター・フラーのクリティカル・パス(1981年)と
 いう本でした。9年前に日本語で読んだときの衝撃は今でもよく覚えています。

 バックミンスター・フラーの予言は、21世紀の今、インターネットとナノテ
 クノロジーが実現して現実味を帯びてきました。でもまだ問題があります。

 とりわけ、どうやって今人間世界に存在する資源を回収するのか、その技術
 はどこにあり、誰が実行出来るのかという問題が大事です。その答えを出し
 てきた会社が、小坂鉱山を母体とするDOWAホールディングス株式会社です。

 吉川廣和会長率いるDOWAは、今や世界の注目の的です。9月に小坂町で開
 かれた国際シンポジウムには希望者が殺到しました。DOWAの新しい鉱山が、
 電子技術の塊であり貴金属や希少金属が数多く使われる自動車や家電や
 携帯電話であるからです。さらに、これまで厄介者であった都市の産業廃棄
 物や不燃物のゴミや汚染土壌も鉱山なのです。

 「環境汚染とは、有用な物質の環境への無秩序な放出だから、物質を回収
 すれば、環境汚染は資源の再利用に変わる」としたバックミンスター・フラー
 の理論を、まさに実践しています。黒鉱以来の複雑な組成のものから、純粋
 の鉱物を取り出す技術が生きているのです。

《日本経済を担う重要な戦略企業が小坂町に最新鋭の施設作り》
 DOWAの小坂精錬は、町と一体となって、環境に最大限の配慮をして様々な
 広大なリサイクル施設を完成させました。そして、今年ついに120億円以上
 の資金を投じて最新鋭のリサイクル炉を作っています。完成したら、資源の
 回収だけでなく、廃材や植物なども燃料に出来る、まさに最新鋭のエコ施設
 が出来ます。

 すでにDOWAは、小坂を中心にエコサイクルのネットワークを作り上げて
 います。冷蔵庫やエアコンや自動車のフロンガス、テレビのブラウン管の
 ガラス、電機ケーブルの銅、パソコンの金、携帯電話の金、銀、銅、パラ
 ジウム、自動車の白金、その他に、亜鉛、セレン、ビスマス、などの希少
 金属が回収され、プラスチックも再利用されています。日本各地だけでなく、
 中国からも使用済み携帯電話が持ち込まれています。

 ただでさえ資源小国の日本です。世界は、中国などがアフリカや中央アジア
 まで行って希少金属などの資源の確保に懸命な時代になりました。

 毎年、携帯電話1,000万台、自動車500万台が日本では廃棄されています。
 リサイクルのかたちでそうした都市鉱山から貴重な資源を発掘出来るDOWA
 のような企業は、どう考えても、21世紀の日本経済を背負って立つだけでは
 ありません。世界の中の日本の地位を確保するための戦略企業のはずです。

《高い輸送コストが世界最高の技術とビジネスチャンスを阻む》
 ところが、資源リサイクルやDOWAと小坂町を取り巻く日本の状況は、立ち
 遅れたままです。まず、なんと、都市鉱石ともいうべき中古パソコンや廃棄
 自動車の数割が海外に流れています。

 リサイクルへの国策の不足もさることながら、重要なのは、国内での輸送の
 不便とコストの高さです。小坂町のDOWAのリサイクル施設まではトラックで
 運ぶしかありません。ところが、最大の都市鉱山である東京から、小坂イン
 ターチェンジまでの5トントラック(中型車)高速料金は往復で4万3,000円も
 するのです。

 これでは、中国やロシア極東部に船で運んだほうが安くつくのではないで
 しょうか。

 さらに、最寄りの港である能代港から小坂までの80キロほどの距離は、高速
 道路すら全線開通していません。一部の高速道路区間は、秋田県の寺田典城
 知事のリーダーシップで無料になりましたが、計画しかない区間もあります。

 まさに、技術を阻むものは政治です。21世紀の日本は、道路公団民営化とい
 う誤った政治の選択をしたために、国土は狭いにもかかわらず、高い交通コ
 ストを固定しています。とりわけ、交通の97%を自動車に依存する秋田県の
 ような地方には致命的です。東京都の自動車依存度はわずか30%ですから、
 都民にはなかなか実感がないハンディです。

 国内の高い輸送コストのために、日本は、技術面では世界最高の環境先進国
 であり、最大の都市鉱山という資源を抱えていながら、資源の確保と環境ビジ
 ネスでの飛躍のチャンスをつかみきれていないのです。

《納める税金のほとんどは地元ではなく東京の収入に》
 さらにいえば、東京一極集中が環境国家日本を阻んでいます。東京しか便利
 でない、そんな戦後日本の国土のいびつな姿に服従するかのように、ほとんど
 の大企業の本社は東京にあります。時価総額上位50企業のうち38社、76%に
 上ります。

 当然、17%程度の地方法人2税は圧倒的に東京都に入ります。DOWAもそうです。
 本社は秋葉原ですから、2007年3月期で188億円もの税金(法人税・住民税・
 事業税の合計)を東京都や拠点のある地方に払っています。

 でも、それだけ払っても、ほとんどが東京都の収入となり、東京は小坂町や
 秋田県のために何をしてくれるわけでもないのです。

 もし、DOWAが小坂町に本社を移したら、DOWAが払う法人税などはもっと生き
 たお金になるでしょう。寺田知事はさらに秋田県の予算で県内の高速道路無料
 化を進めるでしょう。

 川口町長は、さらに環境都市小坂を整備することに力を入れることでしょう。
 コロラド州アスペンのように、見事な自然と文化と学術が融合した地方都市が
 出来るかもしれません。もちろんそのときは、十和田湖を抱える日本有数の
 リゾート地になっているでしょうし、世界中からの環境観光のお客さんも絶え
 ないはずです。

《大学発ベンチャーの大成功例であるTDKも秋田が発祥》
 秋田がふるさとである世界的企業はDOWAだけではありません。

 IT時代の記憶機能をつかさどる磁性材料の世界最大のメーカーであるTDKの
 ルーツは、鳥海山と象潟に近いにかほ市です。東京工業大学の学者が作った
 大学発ベンチャーの大成功例であるTDKは、秋田県に5つの生産拠点があり、
 関連子会社も含め5,000人程度の従業員を抱えています。

 にかほ市にはすばらしいTDK歴史館がありますが、本社は日本橋です。TDKが
 東京都に納めた07年3月期の法人税などは170億円に上ります。もし、TDKが
 本社をにかほ市に移したら、大きな経済圏が出来るでしょう。

《地方では法人税をディスカウントして企業立地を推進せよ》
 そろそろ、本気で日本を変えるときが来たのではないでしょうか。資源と環境
 の面からも、東京一極集中を変えなくてはいけないのは明らかです。
 高速道路無料化による、地方を中心とした交通コストの低下は第一歩に過ぎ
 ません。

 本命は税金です。レーガンの米国でも、ケ(トウ)小平の中国でも、経済改革
 の大黒柱は税金の自由化でした。米国の地方政府は思い切った法人税や投資
 の減税を提供しました。中国の経済特区の目玉も進出企業への無税や減税で
 した。

 さらに、米国では、金融と通信、そして航空のビッグバンが、地方からでも
 世界とのビジネスが出来る環境を整えました。中国も巨大な国土にインフラ
 を整備しました。それによって米国では、ニューヨーク以外の全国に大企業
 が移り新興企業が出来ました。深センから始まった中国の経済改革も、
 沿海部から内陸部へと旺盛な地域間競争を生んだのでした。

 地方に大企業の本社が移ることが重要なのは、今の日本も同じです。
 とりわけ、ふるさとの地でがんばっている企業には、本社を移さなくても
 半分くらいのふるさと納税を認めたりすることも出来るはずです。

 そして、地方では法人税をディスカウント出来るようにするのです。コストの
 安い地方に企業立地が進めば、東京に比べて不動産コストや従業員の住居費
 や通勤費用は減ります。企業収益は増えますから、税収は長期的には増える
 でしょう。

《まずは東京が一番という思い込みを捨てることから》
 企業が集積すれば、様々なサービス産業も立地して便利になれば住民も増え
 ます。地方の財政が豊かになれば、住民へのサービスも向上し、地元での就職
 が増え、地元の学校に学生も集まります。こうした好循環はすでに米中両国で
 実験済みです。

 残るのは決断。今までと違う、それだけの理由で必然の変化を避ける余裕は
 日本にはありません。出来ない理由を探すのも止めましょう。日本の地方に
 は都市の機能がないとか、東京以外に金融や通信や交通のインフラを整備
 するのが大変、といった冗談は止めましょう。

 欧州主要国の数倍もの公共事業費をかけながら、カリフォルニアの9割の面積
 しかない日本の国土の整備が出来ない、などと言ったら世界の人から笑われ
 ます。インフラはあるのです。問題は使えないことです。

 サンフランシスコとロサンゼルスの間の高速道路はただです。同じ距離の高速
 道路を往復するのに、日本では約230ドルもかかるといえば、カリフォルニア
 の人はクレージーと言うでしょう。

 無料の高速道路が当たり前のドイツ人やイギリス人も信じてはくれないでしょ
 う。もう、そんな日本だけの常識は止めましょう。東京がなんでも一番、とい
 う現代のチョンマゲを切り捨ててみれば、すっきりと21世紀の新しい世界が
 見えてくるでしょう。

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 ●次号は来週お届けいたします。どうぞお楽しみに!
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