2003年10月13日月曜日 毎日新聞「論点」~高速道路 無料化論を考える~
公団借金40兆円返済で国民負担は軽減
民営化は「公共事業」ばら撒きの永続
民営化の本家である英国での原則は、官の事業はまず廃止を検討し、廃止できない場合のみ民営化を検討する。そして、英米独など多くの先進国では高速道路は原則無料であり、道路公団のような組織はない。日本でも、高速道路は無料にして道路4公団は廃止すべきである。無料化には年間2兆円程度の財源があれば実行できる。
その際、新税は必要ない。世界一高いガソリン税や重量税といった既存の道路財源の一部を財源に充てればよい。日本は一般税収の四分の一に達する年間12兆円も道路支出に充てている。国土が25倍の米国と並んで世界最大級であり、欧州最大の道路支出国であるドイツの5倍だ。しかも、日本の道路延長はすでにドイツの2倍だ。最悪の財政の中でこんな馬鹿げた無駄遣いをする余裕はないはずであり、既存の道路財源の中から無料化の財源を出すのは当然だ。
じつは、無料化自体が大幅な国民負担の減少につながる。通行料金の根拠である道路4公団の40兆円の借金を、低金利のいま国債を発行して国が返してしまえば無料化は実現する。返済財源を確保するから赤字国債ではない。道路4公団の借金はその分減るから連結会計で見れば国の借金も変わらない。現在の低金利下では、40兆円の国債の金利支払いの合計は20兆円程度に過ぎない。
ところが、民営化計画では40兆円の借金を最低でも五十年以上変動金利で借りつづけるから、新規の建設を一切やらなくても、現在の公的年金の予定利率(4%)で計算しても利払いだけで最低80兆円、将来金利が上昇すれば100兆円を突破する。それが国民負担になる。だから、低金利のいま無料化を実行すれば、民営化に比べて60兆円以上も国民負担が減るのだ。
そもそも、1956年(昭和31年)に日本の高速道路計画がスタートしたときには、30年で無料にする約束だった。ところが、1972年の田中角栄内閣によって無料化の約束は反故にされ、通行料金を半永久的に取り続ける仕組みができ上がった。だから建設費に4600億円しかかかっていない名神・東名高速は、国民から7兆円以上も料金を取り続けているのに無料にならない。川崎から15kmの木更津、神戸から80kmの徳島。巨額の資金をつぎ込んで立派な橋ができても料金が高くて利用できず、経済は衰え若者は流出し赤字だけが残る。世界一高い高速道路は、地方の活性化を叫びながら自立の手段を奪ってきた戦後政治の縮図だ。そして、97%が過疎で3%が過密で高コストの国土ができた。民営化とは高速道路の永久有料化であるだけでない。通行料金と税金の二重取りを続けて、この狭い国土に「公共事業」をばら撒き続ける仕組みを永久化することだ。とても構造改革の名に値しない。本当の構造改革は、高速道路無料化によってもたらされる。
低コスト社会が実現し、より広い範囲の国土が生活圏になり、過密と過疎が解消し、地方分権が実現し、経済が活性化して財政再建の道筋ができるからだ。 |