破綻をきたした減反政策の廃止が昨年ようやく決定されました。日本の農業政策は、戦後コメの増産を目的とし
てスタートし、国民を飢えから救いました。しかしその後コメが余りはじめたことにより歪みが生じ、ここ30年は農業を衰退させる土建業主体の補助金行政と成り果てています。減反政策ひとつを取ってみてもわかるように、現在の農業政策はもはや限界に達しているのです。
本来、農業政策の目的は、「食の安全」、「自給率の向上と食糧安全保障」、「産業としての自立」、「農業繁栄による環境・国土の保全」の4つに集約されると言えるでしょう。極めて当たり前のことばかりですが、これら国民の利益と安全は守られるどころか、いずれも大きな危機にさらされています。
1.食の安全
食品の6割を輸入に依存する世界一の食料輸入大国である日本は、輸入届出した食品の9割強を未検査のまま国内に流通させています。さらに、工業製品や金融商品では当然のように行われている内外無差別規制の原則が適用されないとあれば、食品の安全は望むべくもありません。
2.自給率の向上と食料安全保障
日本の食料自給率は過去30年で大きく低下しています。ほとんどの先進国が安全保障の観点から食料自給を進める中、競争力を著しく弱めた日本の農業は完全に立ち遅れています。それは、生産者が日本の巨大な食の消費市場の多様なニーズを取り込めていないからであり、生産者と消費者を結ぶサービスが、画一的な農協のやり方以外、事実上存在しなかったことが大きな原因です。
3.産業としての自立
日本の稲作農家は平均耕作面積が1.5haと諸外国と比較すると際立って小さく、必要な費用を差し引くと農業所
得はせいぜい数十万円程度にしかなりません。また、6割を占める準主業農家(注)では、農業による収入は総
収入のわずか11%です。産業として自立するにはあまりに脆弱なこの現象は、補助金を受けながら農業はあくまで副業とする方が所得の面で有利になるという、現在の農業政策が生んだ歪みが原因です。
(注)準主業農家:農外所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家
4.農業繁栄による環境・国土の保全
21世紀となったいま、環境と国土の保全は地球規模での主要命題です。農業の衰退により、農村全体が廃村になるなど、日本の文化の根源である田園と里山が失われ、自然環境の破壊も進んでいます。実際の農家の土地保有状況を無視した農地法や公共事業での用地買収による虫食い的な開発は、農業の競争力低下を招いただけでなく、無秩序な国土開発と地方の危機の元凶でもあるのです。 |