山崎養世の日本復活対談
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石川好 豊かな国の実現へ向け、地方を変え、国をグランドデザインする
総選挙では大きな国家ビジョンで争うことが大切 ~ 豊かな国の実現をめざして
山崎: 石川さんは、今回の総選挙をどんなふうにご覧になっていますか?
石川: 小選挙区制での選挙は今度で3回目。自民党と民主党の数が接近して、今回で初めて、かつての社会党と自民党があったときの2大政党に近づくでしょうね。高速道路については、与党は民営化です。民営化と山﨑さんの無料化というのは、本来比較するものじゃないんですね。全然次元が違う。無料化には、日本全体のビジョンが描けますという中身がある。対する民営化は、極論すれば、借金が減る可能性がありますよ、ということだけですよ。自立できる可能性だけです。無料化では、例えば産業構造も、街の構造も国のかたちも変えられるかもしれない。国のグランドデザインができる。民営化は単にプラスマイナス。ひょっとすれば儲かって、株式上場できるかもしれない。そういう議論だから、これは比較にはならないと思います。
  ただ、別の観点で言えば、年金もそうですが、一番大きなアイデアを出さないとダメです。年金をどうするではなくて、この国をこうする、こういう国家像にする、そのビジョンに賛成の人は我々に手を挙げてください――と提起しなくては。100年に1回の国のかたちを出すときなのに、細かいところで差を出している。構想力がなさすぎる。政治は一番大きなことを言いながら、小さいことをやるわけです。それがちょっと弱いと思う。
山崎: 実は日本人が潜在的にみんな思っていて、本当はこうであるべきものなのに、実現していないことをするのが政治家の一番の仕事だと思っています。私は、それは“豊かな国の実現”だと思っています。「豊かですか?」と聞かれて「豊かです」と答えられる日本人は相当少ない。お金は持っている、モノは持っている、でも富ではない。富は人を豊かにします。豊かさは、心の豊かさにも、自立にもつながる。
自分たちの住んでいる地域が豊かなになる社会が、いまこそ求められます。高速道路無料化や金融再生というのは、仏教でいう「方便」で、豊かになるための手段です。今まで追い立てられてここまで来たという国から、あるいは、なんとか生活が成り立ってきたという国から、自分たち一人ひとりが豊かになれる国。そういうふうに地方や個人がなれるかどうか、ここが分かれ目です。キーワードでいうと、「東京中心か、地方か」ということになりますが、豊かな国を実現するということが、次の政治のテーマだと思います。
団塊世代よりも40代の出番。緊迫したときこそ、“ユーモア”を
石川: 私も典型的な団塊世代で、猪瀬直樹さんや菅直人さんもそうです。いってみれば団塊世代は、戦後のサラリーマン社会そのものです。私は、そういう意味では年齢では団塊世代ですが、サラリーマンではないので、私の意見が代表的な団塊の意見だとは思いませんけれども、もう、我々は何もできません。期待しないでください。ラクしすぎました (笑)。
山﨑さんは40代半ば。安倍晋三さんや、閣僚にもそろそろこの年代が出てきましたが、少々危なっかしい。しかし、みなさんがやるしかない。この40代の人たちが、この5年から10年、どういうふうに政治・経済に取り組むかによって、日本の運命が決まりますよ。
私が学長を仰せつかっている秋田公立美術工芸短期大学では、私の呼びかけに応じて学生が地元から小口の出資金を募り、ベンチャー会社を3つも興しました。結構なことだと思います。しかし、その一方で北朝鮮問題などを通して、いまの若者の一部が右傾化していることを危惧しています。社会や世界に対して、物事がわかりやすくなった反面、本質的なことに関心を持つ人があまり多くない。これは日本の立場を考えると、かなり深刻な問題です。
山崎: その学生さんの一人が今年3月の「国際水フォーラム」のコンテストで入賞されたとか。私は、今の若い人が自分の若いころに比べてダメだとは思っていなくて、レベルはむしろ高くなっていると思います。トップレベルの若い人たちは高い能力を持っています。ただし、今は敷かれたレールが見えなくなっています。いい学校を出て、いい会社に入っても、給料も減るし、リストラもある。会社があるかどうかもわからない。非常に不確実なところに直面しています。でも、人類の歴史の中では、そういう期間のほうがむしろ一般的で、その中でキーポイントをどうやって見つけていくかが大切。私はよく自分で世の中の見取り図を書きます。最後は見取り図の中に自分がどこにいるのかを考えます。こうした習慣をつければ、自分で決められる要素のほうが強いんだとわかってきます。
石川: 時代が危機を解決するのは、“ユーモア”しかないんですよ。なぜ人間がユーモアを発明したか。それは危機を解決するためなんですね。難しい問題は解決に時間がかかりますが、その間が耐えられなければ、国家も企業もみんな自滅します。そこを耐えるのが文明の力、文化の力です。この点では、日本の社会はとても弱い。イギリス人は最初からユーモア、皮肉で鍛えられ、外交的な勝利を収めてきた。日本は、結局それがないから、これだけの経済大国になり、外交交渉をしてもユーモアが政治家にもない。
要所要所でのセンス・オブ・ユーモアがほしい。それには、山﨑さんのように“言気”が大事。政治はコトバ。それ以外の何ものでもない (笑)。
山崎: 大変な励ましをいただきました(笑)。本日は誠にありがとうございました。
2003年10月
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