山崎養世の日本復活対談
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船橋洋一 アジアで自らを封じ込め、”孤立”しつつある日本。
中国とアメリカに挟まれた日本のとるべき道は?
山崎: 船橋さんに改めてお伺いしたいのは、外交面でも経済面でもアメリカと中国に挟まれてしまうであろう日本の今後の針路についてですが…。
船橋: 一昨年の「9.11」テロのあと、新しい脅威、イスラムのテロや大量破壊兵器の拡散などに対してアメリカと中国はパートナーシップを取ろうとしています。伝統的な地政学が働き、朝鮮半島はその接点になっています。当面はそれでいいとしても、数十年の長いスパンでみると、米中の矛盾というのも、やはり常にあるとみなくてなりません。この両国の綱引きは続くでしょう。
ただ日本からみると、日中にある問題で米中にない問題があるわけです。それは領土問題と歴史問題です。アメリカと中国の間には尖閣列島のような領土問題はないし、日本と中国のような侵略の歴史はない。
  もちろん中国にもプライドはあり、アメリカによるベルグラードの中国大使館爆撃事件のようなときには反米感情が噴出します。しかし、中国人がアメリカに対して怒ったとしても、それは瞬間蒸発的です。溜まらないし、残らない。しかし、それが対日本の場合は、溜まっていく。この間の「西安寸劇騒動」のように、ばかばかしいことでも危険性は蓄積していくのです。だから中国との関係はとても難しいということも頭に入れておかなくてはいけない。
山崎: アメリカの伝統的な門戸開放主義と、現在の中国の門戸開放路線は基本的には合致しています。アメリカはもともと軍事力を持っているが、それを領土支配に使うという考えはほとんどない国です。資本と技術を求め、門戸開放をやっている中国と、もともと海外に経済進出していこうというアメリカのモチベーションが合致している。ただ、私は専門外ですが、やはり軍事的な部分については間違いなく双方が仮想敵国であろうということでしょう。なにか緊張が高まったときには一触即発というところまで行くかはわかりませんが、そういう軍事的なモチベーションは常に底流にあるとみています。
船橋: 何が歴史の長期的な波動の決定的な要因かといいますと、やはり経済です。アメリカに歯向かい、立ち向かって行く国は、向こう100年ではいくつか出るかもしれませんが、経済に限って言うと、本当のチャレンジャーは中国以外にない。アメリカはその点で中国は他国とは違うとみている。中国でも江沢民を始めとする今の執行部はその点を非常に注意しており、鄧小平(とうしょうへい)の遺言である「決不当頭」、つまり「頭を決して高くするな」という謙虚な外交姿勢を崩していません。最近でも北朝鮮問題の6者協議や、FTAをASEAN諸国に呼びかけるなど、外交攻勢が非常に目覚しい。
しかし、中国人の気持ちのなかにアヘン戦争から百数十年の屈辱の思いがあることも確かです。今のプライドが自信につながって、大国らしさを身に付け、与えることができる国として国際的に振る舞うことができれば、世界をリードする国になるでしょう。しかし、プライドが妙に屈折して、ルサンチマン(抑圧的な心理)を晴らす、つまり復讐に向かう危険性もある。これは指導者のリーダーシップはもちろん、国民教育やイデオロギー、中華主義をどう抑えるか、自分をどれだけマネジメントできるかという、一番難しい課題です。長期的には中国の最大の課題は、復讐心を脱却できるか、克服できるかということではないでしょうか。
“小泉脱亜論”からの卒業と克服を!官僚が仕切ってきたものを国民の手に取り戻す
山崎: 戦後の日本の場合、外交問題が選挙を通じてきちんと議論されたという経験が乏しいと思います。問題が一般の人から見たら縁遠いと思われていること、それにナショナリズムに火を点けてしまいやすいという理由で敬遠されてきました。これからは、政治家やリーダーの人たちの間で正確な議論を広範なレベルで作り上げていく、歴史も含めて徹底的に検討して、リアリズムの中で選択肢をいろいろと考えていくことが必要です。国民全体からやるのは現実的ではないので、差し当たって、各大学の公開講座などの場を活用できるのではないかと考えています。
船橋: 当面はまず、「小泉脱亜論」からの卒業と克服が課題です。小泉さんになってから「脱亜一辺倒」で、「向米一辺倒」です。だから「入亜」を志す必要がある。中国、韓国との関係、これを安定させ、信頼関係を築いていくことが必要ですね。この12月に東京でASEAN+1の特別首脳会議が開かれます。ここがチャンスです。もう一度ASEANとの長期的な日本の関係強化のレールを敷くこと。これがまず総選挙後の第一の課題ですね。
二つめが、イラクへの派兵問題。現地はますます厳しい状態になって、年内の派兵は微妙な情勢ですが、もし出すにしても出すときには、一体何のために出すのかという、日本の理念や世界観、長期的な国益を踏まえた、骨太のロジックを国民に支持されるようなかたちで、作り直さないとだめですね。アメリカが困っているから、北朝鮮の問題もあるから、ここはひとつ汗をかかなくては、などという対米支援の切り口と日米同盟マネジメントのロジックの延長だけで作っていてはいけない。
日本は“国づくり”、「ネイションビルダーとしての日本」という視点を明確にすべきです。日本は明治以降、あるいは戦後の歩みのなかで確かめ、学んできた、世界も共有できる普遍的な言葉で語れる“国づくり”のノウハウを持っている。これを正面に据えて、イラクの再建にも貢献し、大きい外交舞台での使命と役割を再定義する必要がありますね。
最後に三つめとして、国連の改革をもう少し日本が行わなくてはなりません。日本の常任理事国入りも視野に入れながら、アメリカに対して国連改革を真剣に取り組ませるということをしないと、国連はますます疲弊するし、国際政治はアメリカ主導の有志連合型の展開になってします。そうなった時には、国際政治の正当性があいまいになります。国連は非常に不完全で、不十分な機関で、100%の正当性を持っているわけではありませんが、国連に代わるものがないのも現実です。
結局、内政も外交も官僚が全部仕切ってきたものを、どのように国民の手に取り戻すかがいま、問われているのです。世界的視野であるとか長期的な国益の視点で、それぞれ分野の最高の人材とどのような形でリンクさせて、吸収させるか。市民社会の力を使う工夫がこれから必要なんじゃないですか。
  ここは、突破力のある人びとが、自分からリスクを背負ってパブリックの空間に飛び込んでいかないといけない。誰かがやってくれるかというと、誰もやりません。なにもしないと、また官僚がやるわけだから、山崎さんはそうした意味で、パブリックに論戦を挑んだチャレンジャーの代表ですよね(笑)。
山崎: ありがとうございます(笑)。国民とのコミュニケーションが外交でも不可欠になっていることを痛感します。民間には、おそらく立派な方々がたくさん埋もれているはずです。そうした方々と手を携えながら、船橋さんが仰せの“国づくり”について今後も考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。(おわり)
2003年11月
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